このブログは、wizon wizardryonline (ウィザードリィオンライン)のプレイ風景をつづったものです
JP現アルバロア鯖で活動しているプレイヤーの個人日記です。
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「どうも、ロズウィッツさんとエドウィンさん。体調は良くなられましたか?」
イーライは手にした魔法の杖を威嚇するように前に出しながら、そういった。
「おや、君らこそ先に進んだんじゃなかったのか?便所の中で鉢合わせとはこれは少々匂う展開だな、ははは」
こんなときまで冗談を飛ばしたうえに『いまの面白かっただろ』というふうにエドウィンに同意を求めて得意顔をするロージーにうんざりする。
「いえね。あの先で気になる小道を見つけまして。隠し扉を通ってきて見たら、何やら工場のようになってるではありませんか、それで、探索してここにたどり着いたということですよ」
「まて、上に二人男がいたはずだ、そいつらは?」
「殺しました。何やら不逞の輩のようだったので」
エドウィンの問いにさらりとイーライは答えた。この男・・・まさか贋金事件にかかわっているのかもしれない。だとしたら口封じに男達を殺したとも考えられる。
「しかしこれは…この大量のコインは?お二人はここで何をなさっていたんです?」
口調こそ穏やかだが、イーライとその仲間達からはひりひりと殺気が感じられる。こいつらが贋金事件の黒幕であろうとなかろうと、ここを切り抜けるのは少々至難の業のようだ。
「…もしかして、お二人だけでここのコインの山を独り占めしようとされていたのですか?それはつれないですねえ」
「おい、イーライやるのかやらないのか!?どうなんだ」
エルフの魔術師、イーライの仲間の盗賊が焦れたようにそう聞いた。
まてよ、今の反応からすると、少なくともここが贋金工場であることをこいつらは知らないのかもしれない。本当にただここで邂逅しただけならば、丸め込んでしまえるかもしれない。エドウィンが意を決して口を開く。
「は、はは・・・俺たちも驚いているところなんだ。偶然ここにたどり着いてね。それにこのコインの山、いったいここはどういう場所なんだ」
我ながらクサい演技だとは思ったが、この態度に対する反応で彼らの立ち位置がわかるかもしれない。
「・・・・」
しばらくエドウィンを眺めていたイーライが仲間達に向かっていった。
「エドウィンさんはそうおっしゃっていますが…もしかして彼らはこの宝物このことを知っていたんじゃないですかね。われわれと同行してダンジョンの奥に到達しつつ、この場所をみつけてこの金貨を攫うつもりだったのでは?」
「へっ。そういうことかよ。残念だったな、俺たちを出し抜くつもりだったのか」
盗賊と戦士が武器をちらつかせながら、エドウィン達ににじり寄った。
不味い展開だが、一つ分かったことがある。イーライとその仲間たちは意思の統一ができていないということだ。もしかしたらイーライは贋金事件の事を知っているかもしれないが、その仲間たちはただの冒険者である可能性は大きかった。
たしか数か月前に結成した隊だとも聞いていた。イーライが何かの目的で冒険者の中に紛れ込み、冒険者を利用していたのかもしれない。
「待て待て、ほんとだ。俺たちもいまここを見つけたところだ。それにこの大量の金貨をよくみてみろ、これは偽アリストクラートコインだぞ?こんなものを持ち帰っても意味はないだろ」
必死でこの場を切り抜ける口実を口にしたエドウィンに、だがイーライは酷薄だった。
「ほう…まあ、エドウィンさんの言うことはわかります。しかしこれだけのコインだ。価値はない偽金貨だとしてもそもそも粗悪とはいえ金の価値自体はあるのでは?」
―よーしわかった、どうしても俺たちを悪者にしたいんだな。
心中で舌打ちしたが、苦しい言い訳だけでこの場を凌げはしない雰囲気だ。
「莫迦をいうな。ここにあるのは新しく作られた偽アリストクラートコイン、つまり贋金みたいなものだ。そんなものを大量に持って鑑定屋の親父のところへ行って見ろ、茶を飲まされてる間にディメント王国の衛兵が飛んでくる」
そのときロージーが助け舟を出した。今の一言でイーライの仲間たちにも動揺が走ったようだ。冒険者といえども法を犯して投獄されるのはまっぴらだ。
「こぉーんな、偽アリクラなんかどうせ価値もないんだ。くだらない地下金庫室なんか作って得意顔になってるここの持ち主は相当のバカに違いない。ま、ほっておいてとりあえず地上に出ようぜ」
ここぞとばかりにロージーがそう提案する。これでうまくだましおおせるだろうか。
「そ、そんなものは分散して売り払えば足は尽きません。それにここにあるのはタダの偽アリストクラートコインではない」
「お、それはどういうことかなイーライさん。ぼくにはただの偽アリクラにしかみえないがねえ。実は価値のあるものだとでも?」
一瞬イーライはしまったという表情を見せた。やはりこいつはこのコインの山がマズロコインだと知っていたのだ。ということは、その仲間は何も知らずにイーライと隊を組んでいたということだろうか。
「ほんとかイーライ。おまえ、それを知ってたのか?」
隊のリーダー、イーライに不信を持った戦士がそう問いかける、儲け話の秘密を隠す奴。それはいつのどこの時代の冒険者でももっとも毛嫌いされる態度である。
「いえ、今思い出しただけです…たしか、偽アリストクラートコインによく似た正貨がある地方があると…」
今度苦しい言い訳をすることになったのはイーライの番だ。隊のほかの連中もここで争うべきものがお宝の山なのか、それとも関わり合いにならないほうがいい厄介な代物なのかだんだんわからなくなって困惑している様子である。
「おい、どっちなんだ。やっちまった方がいいのか?どうなんだ!?」
そして普段ならともかく、生死をかけた戦いを前にした緊張は人をより極端な行動に向かわせる。
「かまわねえ…」
気の短そうな性格だったノームの僧侶が戦棍をイーライに向けた。
「こうなったら…」
冒険者はいつも、そうだ。それが彼らの一番の解決方法だ。
彼らはどんなに選択支があっても「この回答」を選びたがる。
「皆殺して、ぶんどりだ!!」
最後の言葉を叫んだのはなぜかロージーだった。しかしその言葉にはじかれるように盗賊の短刀が舞い、イーライの呪文がさく裂する。ロージーは適当に炎矢を撃ちまくってあちらこちらに火線をはり、エドウィンは切りかかってきた戦士を逆に蹴り飛ばす。
「エド、こっちだ!!」
特大の炎爆の呪文をマズロコインの山に打ち込んで、偽金貨の雨を降らせると、ロージーはエドを伴って部屋の隅の側溝に移動した。
「飛び込むぞ!!」
ロージーが叫ぶ。側溝はクリーピングコインが通って金貨を運ぶパイプの役目も果たしていたのでかなり深さがあるようだ。先にはどこに続くかわからない水管が延々と続いている。
「泳ぎは」
2人で飛び込む瞬間、エドウィンはロージーの体を掴んでいった。
「まだ俺の方がうまい」
そうしてざぶんと衛兵とハーフエルフの魔術師は流水の中に身を躍らせた。
「ぼくがとびこんだら、君は家来になれ!」
そう叫んで、やせっぽちの魔術師は崖の上から身を躍らせた。
アッと思う間もなく、崖下にざぶんと水柱が上がる。
「やった!」
「とびこんだぞ!」
周りの子供達ははやし立てたが、エドウィン少年だけは顔を青くした。
―まさか本当に飛び込むなんて・・!
どうせ泣きを入れるだけだろうと高をくくっていたが、本当にこの高さから水面に飛び込むとは思わなかった。泳ぎの技を身に着けた村の子供たちですら躊躇する高さの崖である。都会育ちの子供が飛び込んで無事でいる道理がなかった。
そして崖の下を凝視したが、一向にハーフエルフの子供が浮かび上がってくる気配はない。
「ど・・・どうした」
「うかんでこねえな・・・」
徐々に周りの子供達にも動揺が広がっていく。村では数年に一度、不幸にも溺れる子が必ず出ていた。海が本来持つ死への恐怖をよく知る漁村の子供たちの間に、急速に不安が感染する。
「ちくしょう!!」
意を決したのはエドウィンだった。手早く裸になって、肺に思いっきり空気を吸い込み、見事な飛び込みから真っ逆さまに海面に飛び降りた。
この崖からの飛び込みはエドウィンの一八番である。すとーんときれいな水柱を立てて海中に潜るやいなや、すぐさま平衡感覚を取り戻し、まだうす暗い海の底を見渡した。
―いた!
頬袋にいっぱい種を詰めたリスのように空気を飲み込んだエドウィンは海中で意識を失いながら漂う一人の少年を見つけた。
人を担いで泳ぐというのは非常に困難な技である。だが、生来泳ぎの才能のあったエドウィンは今まで何度も潮に流された村の子供たちを引っ張って岸に戻したことがあった。エドウィンの漢気と、泳ぎの熟練なくしてはできない事である。
なんとか岸までたどり着いたが、ハーフエルフの少年はその白い肌をさらに蒼白にしてぐったりとしている。エドウィンも見たことがある、溺れて肺に水が入った子供はこういう顔になるのだ。
うつぶせに寝かせて、肺に空気を送るためロージーの口に口移しで空気を送り込む。村で溺水者が出るたびに大人がしている処置をまねたものだったが、たいていはそのまま死んでしまうことが多く、エドウィン自身この処置がどれほど正しいのかよくわかっていなかった。
「くそ!!」
周りに大人たちはいないだろう。ここは子供の遊び場で、一番近い僧侶のノーマン司祭の家までも走って5分はかかる。助けを呼んでくるうちにロージーの魂は黄泉の国に行ってしまう。
「どうした、小僧」
野太い声がして、旅人らしい風情の男がこちらにかけてくるのが見えた。
「こいつが・・・飛び込んで・・・!息をしてないんだ」
藁にもすがる思いでその男に助けを求めるエドウィンと、ぐったりとして動かないロージーを見て男も状況を悟ったようだった。すぐさまロージーの傍に駆け寄り、片膝をついて両手で胸を垂直に押しはじめた。
「くそっ、おれは僧侶じゃねえが、俺にできるのこれくらいだ。小僧、早く誰か大人を呼んで来い」
エドウィンは裸のまま駆け出し必死で近くのノーマン司祭の家に走った。走りながら大声で泣いていた。だが、足を止めるわけにはいかない、泣きながら全速力でノーマンの家に向かった。
すると、村の雑貨屋に買い出しに行って帰ってきたであろうノーマンが道の向こうからてくてくやってくるではないか。エドウィンはその時ほどクオパティとアヴルールに幸運を感謝したことはなかった。
「おや、エド。裸でかけっこですか?」
温厚なノーマン司祭は初めそう声をかけたが、エドウィンのただならぬ雰囲気に何か事件が起こったことを察した。
「ロ・・・ロージーが・・・深きもの岬で・・・おぼれて・・・」
その言葉を聞いてノーマンは顔色を変え、買いだしてきた荷物を道端にうち捨ててエドウィンとともに岸へ急いだ。
2人が海岸へついてみると。膝をついて座る旅人の男と、いまだにぐったりしているロージーの姿があった。
まさか、とエドウィンは青ざめた。ロージーが死んでしまった、自分の責任だ。
しかし駆け寄ってみれば、ロージーの小さな胸はしっかりと上下していた。この男が助けてくれたんだろうか。
「おう、あんたこの村の人間か?この子がおぼれてたってんで応急処置をしたんだ。もうだめかと思ったが、魔術か何かをかけられてたのか?肺の中から風の魔術が飛び出してきたぞ。その途端水を吐いて息を吹き返した。」
まあだが、大事の後だ見てやってくれと言って男はノーマン司祭に場所を譲った。
男の話が本当ならロージーは飛び込む前に自分の体に何か風の魔法をかけていたのだろうか。ちびでも魔術師というのは本当の事らしかった。
ノーマンがロージーの体を改め、いくつかの治癒魔法を施すのをみながら、エドウィンは安堵にぺたりと尻をついた。おそろしい結果にならなかったのはひとえにいろいろなことが運が良かったというしかない。
「助かりました。ここでこの子を助けていただいたのもアヴルールのお導きでしょう」
処置が終わった後でノーマンが男に感謝の言葉を述べる。
「なあに、冒険者仲間で知られてる蘇生術を施しただけですよ。助かったのは・・・あんたの言うとおりアヴルールのおかげかもしれませんな」
エドウィンは呆然とつぶやいた。
「おれのせいだ・・・ロージーに崖から飛んでみろって・・・」
再びエドウィンの目に大粒の涙が浮かぶ。安堵と後悔と恐怖のないまぜになった涙だった。
「命は助かったんだ。あとであやまりゃあいいさ。だけどお前もあの坊主も…大きくなって国中を冒険するまで命を粗末にするんじゃねえぞ」
「おじさん…冒険者なの?」
冒険者、という人間を、エドウィンは真近に初めて感じた。
「ああ、冒険者だ」
そういって、男はごつごつした大きい手で、エドウィンの頭を撫でた。
「ぶはあ!!」
水管のなかはかなりの急流で首を出して息をするスペースすらろくになかった。エドウィンとロージーは二人して流され、やっと広い貯水域に流しだされて初めて思いっきり空気を吸い込むことができた。
はっきりいって重い装備をつけながら一人を抱えて水の中を流されるというのは、遠まわしな自殺とほぼ変わらない行為だった。
―くっそ、前にもこんなことがあったな。
幼少期、溺れかけたロージーを掴んで岸まで泳いだ記憶が鮮明に蘇る。そして軽いデジャヴュを覚えながらエドウィンは手近なダンジョンの水際に這い上がった。漁村で生まれ育った潜水師なみの泳ぎの腕を持つエドウィンでなければ、ここまで来ることはできなかっただろう。
「おい、ロージー…」
幼少期から変わらず軽いハーフエルフの魔術師の名前を呼んで、エドウィンは一瞬青ざめた。息をしている様子がなかったからだ。
「くそ!!ロージー」
そう叫んで蘇生させようとしたとき、ロージーの口から勢いよく小さな風の奔流が飛び出してきた。
「げっほ、げほ」
続いて大きくえづく魔術師。どうやら飛び込むときに自分に肺の空気が長く持つ魔術か何かをかけていたようだ。そういえばこいつはカナヅチだった。
「ちくしょう、ロージー、驚かすな!ガキの頃もそんなことあったな」
「ぶっへ・・・あ、あのころといっしょにするな。これは海女並みに息が持つよう改良した呪文だぞ、まだ教科書にすらのってない」
ぼくがかんがえたんだぞといいながら残った水を吐きだして一息つくと、ロージーは身の回りを探ってあわてた。
「しまった、杖がない。水流に流されてしまったな。」
「しょうがない。とっさだったんだから」
「うん、まあ・・・くそっ。あのイーライとかいうやつ、お気に入りの杖をよくも」
予備の魔力のこもった短剣が無事なのを確かめると、珍しくロージーが歯噛みした。
「そのイーライだが。どうなったんだ?乱戦であいつらの動きを最後まで追えなかった」
「どうだろうな…死んだとは考えにくいがね。どっちにしろあいつは今回の事件の核心をしってるだろ、ぼくらのことももしかしたら知っていて隊に加えたのかもしれない。」
「だがもう関係ないさ。この原版を衛兵詰所に持っていけば今回の事件は落着だ、だろ?」
懐からマズロコインの原版をとり出すと、エドウィンはそういった。しかしハーフエルフはとんでもないというふうにかぶりをふる。
「エド!君まさかあとはお上に丸投げしようだなんて公務兵みたいなことかんがえてないよな」
俺はまさにその公務兵なんだがなと思いながらエドウィンはすごく嫌な予感がした。
「ぼくらをこんな目に合わせたんだ!すくなくともあのイーライとかいうやつだけはふんじばってやる」
「莫迦いえ、今あいつがどこにいるかすらわからない。原版を俺らが持ちだしたことを知ったらすぐ雲隠れしちまうよ」
うんうん、とロージーが頷く。
「そうだ、あいつは用心深いし、狡猾だ。だが今はまだぼくらを追ってくる、そうだろ」
たしかに。証拠をしかるべき場所に提出するまではあの魔術師はエドウィン達を追うだろう、原版を取り戻すためだ。
ロージーの作戦とはこうだ。原版を餌にイーライを釣りだし、そこを捕まえる。単純だが確かにうまくいけばイーライは食いつくかもしれない、彼にとってみれば絶対に奪われてはいけないもののはずだ。
「そうだ。たまには、追われる衛兵っていうのも悪くないよな」
魔法のナイフを手に持って、エドウィンの顔をみながら、ロージーが意地の悪い笑みを浮かべた。
「どうだ、やったか・・・?」
マズロコインの鋳造所の便所の地下。秘密の金庫で死闘を繰り広げたイーライの元仲間の盗賊は恐る恐るそばにいた戦士と僧侶に聞いた。
「わからん、あのハーフエルフの魔術師と槍使いの戦士はどこかに逃げたようだが…イーライは仕留めたか?」
イーライは頼りになるリーダーだったが、それも損得勘定があればこそだ。
あいつを殺すほうが頭目にしておくより利益を得られるならば迷いなくそうする。
もともとこの戦士と盗賊と僧侶の隊に数か月前イーライが入ってきたのだった、罪悪感もない。
コインが舞飛んでなにがなにやらわからなくなったが、魔術師は完全に息の根を止めておかないと厄介だ。乱戦で死んだにしろ、死体を確認しておきたかった。
すると、その時近くを横行していたクリーピングコインがすっと戦士の傍に近づいた。
「?」
「CHARIRIRIRIRI」
そして突然鋭いコインを勢いよく飛ばして、戦士の体をずたずたに引き裂きはじめた。
「うわああああ」
あっという間に無数のコインに切り刻まれて、戦士はその場に絶命した。しかしなおもしつこくクリーピングコインは戦士の死体をコインで刻み続けている。
「こ、ここにいるクリーピングコインは魔法でおとなしくしてあるんじゃないのか??」
狼狽して僧侶が叫ぶ。するとそれに対してどこからともなく返答があった。
「そうだ。だからいま私が解除したんだ。その魔法をな」
さらに恐るべき速度で火球が僧侶めがけて飛んできて、狙いを過たず僧侶の顔面は業火で焼き落とされた。
「ひいいいいい」
次々に屠られる仲間達を目にして盗賊が悲鳴を上げる。
無数のクリーピングコインに守護されながら闇の中から進み出たイーライは、そんな盗賊を汚物を見るような目で一瞥すると、短杖を彼に向けた。
「イ、イーライ。助けてくれ、俺も何が何だかわからずにさっきはあんたに刃を向けちまったが…今度からは二度と裏切らねえ、約束するよ!」
明らかに戦うより命乞いをしたほうが自らの生存率が高いと換算したのか、盗賊は武器を放り投げ、膝をつき祈る様にイーライに懇願した。
「逃げろ」
「え?に…にがしてくれるのか」
「逃げろ。貴様らけがらわしい冒険者ごときが、私の同胞をきどるな」
盗賊はイーライの気が変わらないうちにと一目散に駆け出した。どこに逃げればいいのかもわからなかったが、とりあえず視界から逃れようと必死で走った。
「…そは、真火の救済。業炎の浄化。円らに焼き落とせ、炎円陣」
突如盗賊の足元から強烈な炎が吹き上がり、周囲の金貨を溶かしながら天井に向かって荒れくるった。
そして始まった時と同様に唐突に炎が消える。燃焼するものもなく、丸く何もかもが焼け焦げた痕だけが残っていた。
炎の円陣の中央にいたはずのシーフは消し炭すら見当たらない。
「・・・・」
イーライは今しがた殺した三人に全く何の感情も持っていなかった。せいぜい冒険者の振りをして数か月彼らと寝食を共にせねばならなかった不快感だけだ。
「おのれ…あの魔術師どもめ」
エルフの魔術師は自ら唱えた魔法よりどす赤い怒りの炎をその目に宿すと、さっと踵をひるがえす。あの二人を見つけ出して、殺さねばならぬ、そう心に誓いながら。
「どうも、ロズウィッツさんとエドウィンさん。体調は良くなられましたか?」
イーライは手にした魔法の杖を威嚇するように前に出しながら、そういった。
「おや、君らこそ先に進んだんじゃなかったのか?便所の中で鉢合わせとはこれは少々匂う展開だな、ははは」
こんなときまで冗談を飛ばしたうえに『いまの面白かっただろ』というふうにエドウィンに同意を求めて得意顔をするロージーにうんざりする。
「いえね。あの先で気になる小道を見つけまして。隠し扉を通ってきて見たら、何やら工場のようになってるではありませんか、それで、探索してここにたどり着いたということですよ」
「まて、上に二人男がいたはずだ、そいつらは?」
「殺しました。何やら不逞の輩のようだったので」
エドウィンの問いにさらりとイーライは答えた。この男・・・まさか贋金事件にかかわっているのかもしれない。だとしたら口封じに男達を殺したとも考えられる。
「しかしこれは…この大量のコインは?お二人はここで何をなさっていたんです?」
口調こそ穏やかだが、イーライとその仲間達からはひりひりと殺気が感じられる。こいつらが贋金事件の黒幕であろうとなかろうと、ここを切り抜けるのは少々至難の業のようだ。
「…もしかして、お二人だけでここのコインの山を独り占めしようとされていたのですか?それはつれないですねえ」
「おい、イーライやるのかやらないのか!?どうなんだ」
エルフの魔術師、イーライの仲間の盗賊が焦れたようにそう聞いた。
まてよ、今の反応からすると、少なくともここが贋金工場であることをこいつらは知らないのかもしれない。本当にただここで邂逅しただけならば、丸め込んでしまえるかもしれない。エドウィンが意を決して口を開く。
「は、はは・・・俺たちも驚いているところなんだ。偶然ここにたどり着いてね。それにこのコインの山、いったいここはどういう場所なんだ」
我ながらクサい演技だとは思ったが、この態度に対する反応で彼らの立ち位置がわかるかもしれない。
「・・・・」
しばらくエドウィンを眺めていたイーライが仲間達に向かっていった。
「エドウィンさんはそうおっしゃっていますが…もしかして彼らはこの宝物このことを知っていたんじゃないですかね。われわれと同行してダンジョンの奥に到達しつつ、この場所をみつけてこの金貨を攫うつもりだったのでは?」
「へっ。そういうことかよ。残念だったな、俺たちを出し抜くつもりだったのか」
盗賊と戦士が武器をちらつかせながら、エドウィン達ににじり寄った。
不味い展開だが、一つ分かったことがある。イーライとその仲間たちは意思の統一ができていないということだ。もしかしたらイーライは贋金事件の事を知っているかもしれないが、その仲間たちはただの冒険者である可能性は大きかった。
たしか数か月前に結成した隊だとも聞いていた。イーライが何かの目的で冒険者の中に紛れ込み、冒険者を利用していたのかもしれない。
「待て待て、ほんとだ。俺たちもいまここを見つけたところだ。それにこの大量の金貨をよくみてみろ、これは偽アリストクラートコインだぞ?こんなものを持ち帰っても意味はないだろ」
必死でこの場を切り抜ける口実を口にしたエドウィンに、だがイーライは酷薄だった。
「ほう…まあ、エドウィンさんの言うことはわかります。しかしこれだけのコインだ。価値はない偽金貨だとしてもそもそも粗悪とはいえ金の価値自体はあるのでは?」
―よーしわかった、どうしても俺たちを悪者にしたいんだな。
心中で舌打ちしたが、苦しい言い訳だけでこの場を凌げはしない雰囲気だ。
「莫迦をいうな。ここにあるのは新しく作られた偽アリストクラートコイン、つまり贋金みたいなものだ。そんなものを大量に持って鑑定屋の親父のところへ行って見ろ、茶を飲まされてる間にディメント王国の衛兵が飛んでくる」
そのときロージーが助け舟を出した。今の一言でイーライの仲間たちにも動揺が走ったようだ。冒険者といえども法を犯して投獄されるのはまっぴらだ。
「こぉーんな、偽アリクラなんかどうせ価値もないんだ。くだらない地下金庫室なんか作って得意顔になってるここの持ち主は相当のバカに違いない。ま、ほっておいてとりあえず地上に出ようぜ」
ここぞとばかりにロージーがそう提案する。これでうまくだましおおせるだろうか。
「そ、そんなものは分散して売り払えば足は尽きません。それにここにあるのはタダの偽アリストクラートコインではない」
「お、それはどういうことかなイーライさん。ぼくにはただの偽アリクラにしかみえないがねえ。実は価値のあるものだとでも?」
一瞬イーライはしまったという表情を見せた。やはりこいつはこのコインの山がマズロコインだと知っていたのだ。ということは、その仲間は何も知らずにイーライと隊を組んでいたということだろうか。
「ほんとかイーライ。おまえ、それを知ってたのか?」
隊のリーダー、イーライに不信を持った戦士がそう問いかける、儲け話の秘密を隠す奴。それはいつのどこの時代の冒険者でももっとも毛嫌いされる態度である。
「いえ、今思い出しただけです…たしか、偽アリストクラートコインによく似た正貨がある地方があると…」
今度苦しい言い訳をすることになったのはイーライの番だ。隊のほかの連中もここで争うべきものがお宝の山なのか、それとも関わり合いにならないほうがいい厄介な代物なのかだんだんわからなくなって困惑している様子である。
「おい、どっちなんだ。やっちまった方がいいのか?どうなんだ!?」
そして普段ならともかく、生死をかけた戦いを前にした緊張は人をより極端な行動に向かわせる。
「かまわねえ…」
気の短そうな性格だったノームの僧侶が戦棍をイーライに向けた。
「こうなったら…」
冒険者はいつも、そうだ。それが彼らの一番の解決方法だ。
彼らはどんなに選択支があっても「この回答」を選びたがる。
「皆殺して、ぶんどりだ!!」
最後の言葉を叫んだのはなぜかロージーだった。しかしその言葉にはじかれるように盗賊の短刀が舞い、イーライの呪文がさく裂する。ロージーは適当に炎矢を撃ちまくってあちらこちらに火線をはり、エドウィンは切りかかってきた戦士を逆に蹴り飛ばす。
「エド、こっちだ!!」
特大の炎爆の呪文をマズロコインの山に打ち込んで、偽金貨の雨を降らせると、ロージーはエドを伴って部屋の隅の側溝に移動した。
「飛び込むぞ!!」
ロージーが叫ぶ。側溝はクリーピングコインが通って金貨を運ぶパイプの役目も果たしていたのでかなり深さがあるようだ。先にはどこに続くかわからない水管が延々と続いている。
「泳ぎは」
2人で飛び込む瞬間、エドウィンはロージーの体を掴んでいった。
「まだ俺の方がうまい」
そうしてざぶんと衛兵とハーフエルフの魔術師は流水の中に身を躍らせた。
「ぼくがとびこんだら、君は家来になれ!」
そう叫んで、やせっぽちの魔術師は崖の上から身を躍らせた。
アッと思う間もなく、崖下にざぶんと水柱が上がる。
「やった!」
「とびこんだぞ!」
周りの子供達ははやし立てたが、エドウィン少年だけは顔を青くした。
―まさか本当に飛び込むなんて・・!
どうせ泣きを入れるだけだろうと高をくくっていたが、本当にこの高さから水面に飛び込むとは思わなかった。泳ぎの技を身に着けた村の子供たちですら躊躇する高さの崖である。都会育ちの子供が飛び込んで無事でいる道理がなかった。
そして崖の下を凝視したが、一向にハーフエルフの子供が浮かび上がってくる気配はない。
「ど・・・どうした」
「うかんでこねえな・・・」
徐々に周りの子供達にも動揺が広がっていく。村では数年に一度、不幸にも溺れる子が必ず出ていた。海が本来持つ死への恐怖をよく知る漁村の子供たちの間に、急速に不安が感染する。
「ちくしょう!!」
意を決したのはエドウィンだった。手早く裸になって、肺に思いっきり空気を吸い込み、見事な飛び込みから真っ逆さまに海面に飛び降りた。
この崖からの飛び込みはエドウィンの一八番である。すとーんときれいな水柱を立てて海中に潜るやいなや、すぐさま平衡感覚を取り戻し、まだうす暗い海の底を見渡した。
―いた!
頬袋にいっぱい種を詰めたリスのように空気を飲み込んだエドウィンは海中で意識を失いながら漂う一人の少年を見つけた。
人を担いで泳ぐというのは非常に困難な技である。だが、生来泳ぎの才能のあったエドウィンは今まで何度も潮に流された村の子供たちを引っ張って岸に戻したことがあった。エドウィンの漢気と、泳ぎの熟練なくしてはできない事である。
なんとか岸までたどり着いたが、ハーフエルフの少年はその白い肌をさらに蒼白にしてぐったりとしている。エドウィンも見たことがある、溺れて肺に水が入った子供はこういう顔になるのだ。
うつぶせに寝かせて、肺に空気を送るためロージーの口に口移しで空気を送り込む。村で溺水者が出るたびに大人がしている処置をまねたものだったが、たいていはそのまま死んでしまうことが多く、エドウィン自身この処置がどれほど正しいのかよくわかっていなかった。
「くそ!!」
周りに大人たちはいないだろう。ここは子供の遊び場で、一番近い僧侶のノーマン司祭の家までも走って5分はかかる。助けを呼んでくるうちにロージーの魂は黄泉の国に行ってしまう。
「どうした、小僧」
野太い声がして、旅人らしい風情の男がこちらにかけてくるのが見えた。
「こいつが・・・飛び込んで・・・!息をしてないんだ」
藁にもすがる思いでその男に助けを求めるエドウィンと、ぐったりとして動かないロージーを見て男も状況を悟ったようだった。すぐさまロージーの傍に駆け寄り、片膝をついて両手で胸を垂直に押しはじめた。
「くそっ、おれは僧侶じゃねえが、俺にできるのこれくらいだ。小僧、早く誰か大人を呼んで来い」
エドウィンは裸のまま駆け出し必死で近くのノーマン司祭の家に走った。走りながら大声で泣いていた。だが、足を止めるわけにはいかない、泣きながら全速力でノーマンの家に向かった。
すると、村の雑貨屋に買い出しに行って帰ってきたであろうノーマンが道の向こうからてくてくやってくるではないか。エドウィンはその時ほどクオパティとアヴルールに幸運を感謝したことはなかった。
「おや、エド。裸でかけっこですか?」
温厚なノーマン司祭は初めそう声をかけたが、エドウィンのただならぬ雰囲気に何か事件が起こったことを察した。
「ロ・・・ロージーが・・・深きもの岬で・・・おぼれて・・・」
その言葉を聞いてノーマンは顔色を変え、買いだしてきた荷物を道端にうち捨ててエドウィンとともに岸へ急いだ。
2人が海岸へついてみると。膝をついて座る旅人の男と、いまだにぐったりしているロージーの姿があった。
まさか、とエドウィンは青ざめた。ロージーが死んでしまった、自分の責任だ。
しかし駆け寄ってみれば、ロージーの小さな胸はしっかりと上下していた。この男が助けてくれたんだろうか。
「おう、あんたこの村の人間か?この子がおぼれてたってんで応急処置をしたんだ。もうだめかと思ったが、魔術か何かをかけられてたのか?肺の中から風の魔術が飛び出してきたぞ。その途端水を吐いて息を吹き返した。」
まあだが、大事の後だ見てやってくれと言って男はノーマン司祭に場所を譲った。
男の話が本当ならロージーは飛び込む前に自分の体に何か風の魔法をかけていたのだろうか。ちびでも魔術師というのは本当の事らしかった。
ノーマンがロージーの体を改め、いくつかの治癒魔法を施すのをみながら、エドウィンは安堵にぺたりと尻をついた。おそろしい結果にならなかったのはひとえにいろいろなことが運が良かったというしかない。
「助かりました。ここでこの子を助けていただいたのもアヴルールのお導きでしょう」
処置が終わった後でノーマンが男に感謝の言葉を述べる。
「なあに、冒険者仲間で知られてる蘇生術を施しただけですよ。助かったのは・・・あんたの言うとおりアヴルールのおかげかもしれませんな」
エドウィンは呆然とつぶやいた。
「おれのせいだ・・・ロージーに崖から飛んでみろって・・・」
再びエドウィンの目に大粒の涙が浮かぶ。安堵と後悔と恐怖のないまぜになった涙だった。
「命は助かったんだ。あとであやまりゃあいいさ。だけどお前もあの坊主も…大きくなって国中を冒険するまで命を粗末にするんじゃねえぞ」
「おじさん…冒険者なの?」
冒険者、という人間を、エドウィンは真近に初めて感じた。
「ああ、冒険者だ」
そういって、男はごつごつした大きい手で、エドウィンの頭を撫でた。
「ぶはあ!!」
水管のなかはかなりの急流で首を出して息をするスペースすらろくになかった。エドウィンとロージーは二人して流され、やっと広い貯水域に流しだされて初めて思いっきり空気を吸い込むことができた。
はっきりいって重い装備をつけながら一人を抱えて水の中を流されるというのは、遠まわしな自殺とほぼ変わらない行為だった。
―くっそ、前にもこんなことがあったな。
幼少期、溺れかけたロージーを掴んで岸まで泳いだ記憶が鮮明に蘇る。そして軽いデジャヴュを覚えながらエドウィンは手近なダンジョンの水際に這い上がった。漁村で生まれ育った潜水師なみの泳ぎの腕を持つエドウィンでなければ、ここまで来ることはできなかっただろう。
「おい、ロージー…」
幼少期から変わらず軽いハーフエルフの魔術師の名前を呼んで、エドウィンは一瞬青ざめた。息をしている様子がなかったからだ。
「くそ!!ロージー」
そう叫んで蘇生させようとしたとき、ロージーの口から勢いよく小さな風の奔流が飛び出してきた。
「げっほ、げほ」
続いて大きくえづく魔術師。どうやら飛び込むときに自分に肺の空気が長く持つ魔術か何かをかけていたようだ。そういえばこいつはカナヅチだった。
「ちくしょう、ロージー、驚かすな!ガキの頃もそんなことあったな」
「ぶっへ・・・あ、あのころといっしょにするな。これは海女並みに息が持つよう改良した呪文だぞ、まだ教科書にすらのってない」
ぼくがかんがえたんだぞといいながら残った水を吐きだして一息つくと、ロージーは身の回りを探ってあわてた。
「しまった、杖がない。水流に流されてしまったな。」
「しょうがない。とっさだったんだから」
「うん、まあ・・・くそっ。あのイーライとかいうやつ、お気に入りの杖をよくも」
予備の魔力のこもった短剣が無事なのを確かめると、珍しくロージーが歯噛みした。
「そのイーライだが。どうなったんだ?乱戦であいつらの動きを最後まで追えなかった」
「どうだろうな…死んだとは考えにくいがね。どっちにしろあいつは今回の事件の核心をしってるだろ、ぼくらのことももしかしたら知っていて隊に加えたのかもしれない。」
「だがもう関係ないさ。この原版を衛兵詰所に持っていけば今回の事件は落着だ、だろ?」
懐からマズロコインの原版をとり出すと、エドウィンはそういった。しかしハーフエルフはとんでもないというふうにかぶりをふる。
「エド!君まさかあとはお上に丸投げしようだなんて公務兵みたいなことかんがえてないよな」
俺はまさにその公務兵なんだがなと思いながらエドウィンはすごく嫌な予感がした。
「ぼくらをこんな目に合わせたんだ!すくなくともあのイーライとかいうやつだけはふんじばってやる」
「莫迦いえ、今あいつがどこにいるかすらわからない。原版を俺らが持ちだしたことを知ったらすぐ雲隠れしちまうよ」
うんうん、とロージーが頷く。
「そうだ、あいつは用心深いし、狡猾だ。だが今はまだぼくらを追ってくる、そうだろ」
たしかに。証拠をしかるべき場所に提出するまではあの魔術師はエドウィン達を追うだろう、原版を取り戻すためだ。
ロージーの作戦とはこうだ。原版を餌にイーライを釣りだし、そこを捕まえる。単純だが確かにうまくいけばイーライは食いつくかもしれない、彼にとってみれば絶対に奪われてはいけないもののはずだ。
「そうだ。たまには、追われる衛兵っていうのも悪くないよな」
魔法のナイフを手に持って、エドウィンの顔をみながら、ロージーが意地の悪い笑みを浮かべた。
「どうだ、やったか・・・?」
マズロコインの鋳造所の便所の地下。秘密の金庫で死闘を繰り広げたイーライの元仲間の盗賊は恐る恐るそばにいた戦士と僧侶に聞いた。
「わからん、あのハーフエルフの魔術師と槍使いの戦士はどこかに逃げたようだが…イーライは仕留めたか?」
イーライは頼りになるリーダーだったが、それも損得勘定があればこそだ。
あいつを殺すほうが頭目にしておくより利益を得られるならば迷いなくそうする。
もともとこの戦士と盗賊と僧侶の隊に数か月前イーライが入ってきたのだった、罪悪感もない。
コインが舞飛んでなにがなにやらわからなくなったが、魔術師は完全に息の根を止めておかないと厄介だ。乱戦で死んだにしろ、死体を確認しておきたかった。
すると、その時近くを横行していたクリーピングコインがすっと戦士の傍に近づいた。
「?」
「CHARIRIRIRIRI」
そして突然鋭いコインを勢いよく飛ばして、戦士の体をずたずたに引き裂きはじめた。
「うわああああ」
あっという間に無数のコインに切り刻まれて、戦士はその場に絶命した。しかしなおもしつこくクリーピングコインは戦士の死体をコインで刻み続けている。
「こ、ここにいるクリーピングコインは魔法でおとなしくしてあるんじゃないのか??」
狼狽して僧侶が叫ぶ。するとそれに対してどこからともなく返答があった。
「そうだ。だからいま私が解除したんだ。その魔法をな」
さらに恐るべき速度で火球が僧侶めがけて飛んできて、狙いを過たず僧侶の顔面は業火で焼き落とされた。
「ひいいいいい」
次々に屠られる仲間達を目にして盗賊が悲鳴を上げる。
無数のクリーピングコインに守護されながら闇の中から進み出たイーライは、そんな盗賊を汚物を見るような目で一瞥すると、短杖を彼に向けた。
「イ、イーライ。助けてくれ、俺も何が何だかわからずにさっきはあんたに刃を向けちまったが…今度からは二度と裏切らねえ、約束するよ!」
明らかに戦うより命乞いをしたほうが自らの生存率が高いと換算したのか、盗賊は武器を放り投げ、膝をつき祈る様にイーライに懇願した。
「逃げろ」
「え?に…にがしてくれるのか」
「逃げろ。貴様らけがらわしい冒険者ごときが、私の同胞をきどるな」
盗賊はイーライの気が変わらないうちにと一目散に駆け出した。どこに逃げればいいのかもわからなかったが、とりあえず視界から逃れようと必死で走った。
「…そは、真火の救済。業炎の浄化。円らに焼き落とせ、炎円陣」
突如盗賊の足元から強烈な炎が吹き上がり、周囲の金貨を溶かしながら天井に向かって荒れくるった。
そして始まった時と同様に唐突に炎が消える。燃焼するものもなく、丸く何もかもが焼け焦げた痕だけが残っていた。
炎の円陣の中央にいたはずのシーフは消し炭すら見当たらない。
「・・・・」
イーライは今しがた殺した三人に全く何の感情も持っていなかった。せいぜい冒険者の振りをして数か月彼らと寝食を共にせねばならなかった不快感だけだ。
「おのれ…あの魔術師どもめ」
エルフの魔術師は自ら唱えた魔法よりどす赤い怒りの炎をその目に宿すと、さっと踵をひるがえす。あの二人を見つけ出して、殺さねばならぬ、そう心に誓いながら。
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あるときは宝箱の中から爆弾を出すシーフ、またあるときは攻撃の届かないファイター。
ただ皆様の平和と健康と幸福を祈るだけの存在
E-mail:
wizardry_online31jp@yahoo.co.jp
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