このブログは、wizon wizardryonline (ウィザードリィオンライン)のプレイ風景をつづったものです
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子供のころのトイレの思い出と言ったら、
ウオシュレットのボタンをいじってしまい、あの悪魔のようなシステムが発動して
止めるすべも分からず、家人に助けを請うたことですね。
15年ほど、それからトラウマでウォシュレットを使えませんでした。
今・・・? 大ファンです。
(前回までのあらすじ)
スタイリッシュトイレットin
【魔術師】第一回はこちら。
*これまでの小説は、カテゴリーの「小説まとめ」に記載してあります*
ウオシュレットのボタンをいじってしまい、あの悪魔のようなシステムが発動して
止めるすべも分からず、家人に助けを請うたことですね。
15年ほど、それからトラウマでウォシュレットを使えませんでした。
今・・・? 大ファンです。
(前回までのあらすじ)
スタイリッシュトイレットin
【魔術師】第一回はこちら。
*これまでの小説は、カテゴリーの「小説まとめ」に記載してあります*
****************************************
肥溜の中に身を躍らせるなどという最低な経験が一体人生で何回あるだろうか。
いや、そういえば子供の時に村の堆肥桶の中に足を突っ込んだことはあったなとエドウィンは唐突に回想した。
―あ、ほら、これはあれだ。死の直前にそれまでの人生が駆け巡るというやつだ。ああ。あのころはよかったなあ…
必死で現実から目をそらすためだろうか、エドウィンの脳は幼少期の他愛もない幻影を張り巡らせた。これはこれで自己防衛本能なのかもしれない。
贋金鋳造工場の金庫を探すため、汲み取り式の便器のほら暗い穴の淵へ入らねばならないという大役をこなすことになったエドウィンは、上からつりさげられた鍵梯子を極力何も考えないように、おり続ける。
黙々と、機械のように手足を動かす若き衛兵は、鼻腔から入った空気が鼻の粘膜に到達した後その情報を脳につたえることを全力で阻止することだけに全神経を注いでいた。
―おい、エド。下には到達したのか?
エドウィンの頭上。便器の入口からロージーが念話を送ってくる。上を向くと髪やら肌に周囲の不快な粘性物質が触れるような気がしたので、エドウィンは体を強張らせて梯子を降りつつ答える。
―まだだ…しかし下までの距離が異様に長いぞ。どういう便所だよ。
―やっぱりな、間違いない。その下は黄金の金庫だぞ!
こいつわかってて茶化してやがるとエドウィンは思ったが、魔術師のその不愉快な冗談には付き合わず、黙々と梯子を下り続けた。
ほどなくして、足が暗闇の底についた。べっちょりしたトラウマものの感触を覚悟していたエドウィンだったが、意外にも靴のかかとはかきん、という金属的な響きを立てた。
真闇で何も見えないが、足の底で地面を探ってみるとどうやら小さな金属が積み重なった小山の上にいるような感覚である。
しゃがみこんで、皮手袋で足元の金属片を一つつまんでみる。円形で薄い。間違いなくそれはコインのようであった。
―ちょっとまてよ・・・もしかして俺は贋金の山の上にいるのか…?
周囲の強烈な臭気も忘れ、エドウィンの心臓が高鳴った。
この金庫室の広さはわからないが、もしこれが全部マズロコイン・・・贋金だとすると途方もない額だということになる。
―チャリ…チャリ…
近くから何か金属が舞うような音が聞こえる。エドウィンは音を殺して抜剣すると暗闇の中をそろそろとそちらの方向へ進んでいった。
コインの山の上だというのに足音を殺して移動できるのは若い時の盗賊の修行の賜物だ。
音のする方向へ少し進んでみると、闇の中でもうっすらと目が見え始めた。だがそれはなにもエドウィンの夜目の能力のおかげではない、腰ほどの高さの中空を数十枚のコインが淡く発行しながら舞飛んでいるのだ。
―クリーピングコイン…
クリーピングコインはコインから作られた魔法生物で、見た目はよだれが出そうな相手であるものの、手ごわいモンスターとして知られる。
財宝を装いダンジョンに潜み、時に旅人や欲深い冒険者を爪弾く恐ろしい相手だ。
しかし、このモンスターは近づいたエドウィンを無視するように徘徊を続けるだけで一向に襲い掛かってこない。本来は非常に好戦的で、かつしつこい性格のモンスターなのだ。
―どういうことだ。
エドウィンは訝しみながら周囲を見回した。するとあちらでもこちらでも、淡く発光したコインの群れが、床一面に敷き詰められたコインの絨毯の上を忙しそうに行き来している。
不審に思ってエドウィンはひとつのクリーピングコイン(奴らは『個体』とはいいずらいがコイン数十枚で一つの群れを構成している。)をつけてみることにした。
『彼』はせわしなく足元のコインを吸い出しながら舞い動き、やがて部屋の隅まで来ると、側溝の中に入っていく。大きめの管の中の水流にざぶざぶと姿を消していくコインモンスターを見て、エドウィンははたと気が付いた。
―この先…水路か?もしかしてここから旧水路の傍流に通じているのかもしれない。
するとここから偽コインは「出荷」されているわけだ。それもクリーピングコインの姿で。
つまりここからディメント王国の広大な地域にまたがる旧水路全域にわたってクリーピングコインが送り出され、途中で朽ちたりそれを倒した迷宮内のモンスターがコインを拾い集め、さらにそのモンスターどもを倒した冒険者がドロップとしてコインを入手するというわけだ。
―たしかにこりゃあ、出所がわからなくて当然だ。もしこれがマズロコインだと看過したとしても冒険者が出会う頃はタダのモンスターが落としたお宝の一片になってる。
エドウィンは自分達ディメント王国騎士団が鎮護すべき国内でこのような狡猾な贋金の流通ルートができていたことに戦慄した。
しかし、ここさえ押さえればこの贋金事件をねじ伏せることができる。あとは…そう、原版か真犯人につながる証拠があれば完璧だ。
「どうした、なにつったってるんだい」
「うおわあ!!」
背後からいきなり声をかけられてエドウィンは仰天して頓狂な声を出してしまった。
いつの間にかロージーが降りて来ていてエドウィンの背後にいたのだ。
「なんてやつだ。お前は盗賊か?足音もなく忍び寄るのはよせ」
取り乱したバツの悪さを隠すようにロージーを非難する。
「ははは。風に運んでもらったのさ。移動も静かでいい。君もどうだ、今から魔術でも学んでみろよ、すこぶる便利だぞ」
見ればロージーは胡坐をかいたまま、中空に浮かぶ敷物の上に座っていた。敷物自体が風の魔法の力で宙に浮いているようだ。そんな奇体な魔術はおよそ見たことがないが、なにかの魔法の応用らしかった。
ふむ、これはお尻がむずむずするのが弱点だな、と一人ごちながらロージーが地面に降り立つ。どうやら魔術の効果が切れたようだ。
「そりゃそうと、お前の言ったように原版の保管もされてないようだぞ。手詰まりになっちまった」
「いいや、探し足りないんだ。それこそどこかに隠し扉でもあるんじゃないのか」
適当なことを言いながら、ロージーはあたりをふらふらと見回した。呑気というか何に付けてもいちいち鷹揚なやつなのだ。
「それよりこのクリーピングコインよくできてるなあ!ここにいるのは魔法で敵性をそがれている使役タイプだな。これなら一緒にいても攻撃されないぞ、可愛いもんだ。」
ほーれうりうりと猫の顎の下を触る様に手近なクリーピングコインと戯れはじめたハーフエルフの魔術師をほっといて、エドウィンはこの秘密の金庫室の探索に専念し始めた。
四方をくまなく見てみると、隅に一脚の木製のテーブルがしつらえてあった。テーブルの上には銀製の両天秤が一つのみ。明らかに怪しい。
天秤の皿には右に数十枚の金貨が乗せられていた。左には何も乗せられていない。当然天秤は傾いており、自身の空の皿に何かを乗せてくれと言わんばかりに左側の皿を大きく持ち上げている。
「おーおー。エド君、なにか面白いものを見つけたな」
ロージーがクリーピングコインをもてあそびながら近寄ってくる。
「ふむ。もしかしたらこれが原版の保管庫のギミックなのかもしれないな」
皿に乗せられている金貨を手に取ってみるとそれは周囲のマズロコインではなく、純正品のアリストクラートコインのようだった。総計五十枚あった。
「つまり釣り合うように、こっち側にマズロコインを乗せろと?簡単なリドルだ」
一般的にアリストクラートコインはマズロコインの1.26倍の比重を持っていると言われている。それならば、50枚のアリストクラートコインにつりあわせるためには63枚のマズロコインを乗せればいいはずだ。
エドウィンは手近なマズロコインを拾い集め、それを数えながら空の皿に乗せて行った。こんなの知っていればクオパティの寺子屋に通う小僧でも解けるリドルだ。
「61…62…」
そして最後の63枚目を乗せようとしたとき、ロージーがエドウィンの手を掴んだ。
「待て、エド。なんかおかしい」
ロージーは柄にもなく、真剣な顔になってテーブルと天秤の周囲をぐるぐるとまわるとうんうんうなりながら何かを考え込んでいた。
「おい、ただの算数リドルじゃないのか?悩む必要なんかないだろ」
「いや…やたら手の込んだ贋金事件の首謀者の仕掛けたリドルにしちゃこれは簡単だ。こいつは他人を莫迦にしてる、お前ら冒険者なんか利用するだけだって思ってるやつだ。それがこんなミエミエなリドルなんかし掛けるかなあ…」
「まあ…だが考えすぎだ、ロージー。どうせ犯人は魔術師だ、魔術師なんてみんなそんなもんだろ。お前らにこの問題が解けるかって思ってるんだ」
「そうだ、魔術師だからだ。彼らは相手よりなにがなんでも頭がよくなくちゃ気が済まないのさ、そういう生き物だ」
全く持って自分の事を棚に上げて、ハーフエルフの魔術師はそういうと、懐からよく磨かれた投擲器の玉をとり出した。ロージーが持ち歩く数少ない物理的な武器の一つだ。
ロージーはその鋼鉄製の弾をテーブルの上に慎重に乗せた。するとつーっと玉はテーブルの上を転がり始める。
「!?」
テーブルは初めから傾いていたのだ。そのことに気が付かずに63枚のコインを乗せたらこの秘密の金庫室の中でデス・トラップが発動したのかもしれない。
「思った通りだ!これはブービートラップだ。莫迦め、僕ら歴戦の『アルグニッツ冒険隊』がこんな初歩的な『マヌケ外し』に引っかかると思ったのか?」
先ほど魔術師を頭の良さを鼻にかける連中だと言っていたその口で、リドルの仕掛け人を罵倒するとロージーは二枚のマズロコインを秤の上に乗せた、総計64枚のコイン。
するとやんぬるかな、秤はぴたりとつりあい、次いでテーブルの脇の壁がずりずりと自動で後退し始めた。ロージーの言うとおり隠し扉が現れたのだ。
「驚いたな、ほんとにこんな隠し扉のあるダンジョンなんてあったのか」
迷宮小説張りの隠し扉の登場にエドウィンが思わずそう感想を述べた。こういうのは現実のダンジョンにはないと思っていたよ。
「ふん、ちんけな謎解きのくせに仕掛けは大掛かりだな…お、思った通りだ。これが原版だな」
隠し扉の部屋の中はほんの小さなスペースになっていて、確かにその中の台座に恭しく金属製の貨幣鋳造用の型版が置かれていた。
「やったな!さあさっさとこんなすえた臭いの場所からは脱出しよう」
自分の部屋以外の場所ではきれい好きのロージーには、ここの匂いはやはり耐えられなかったらしい。
2人はマズロコインの原版を持ち出すと、鍵縄梯子を使って便器から上の階へ戻ろうとした。あとはこれを魔法局に提出して真犯人を洗い出してもらえば一件落着だ。
しかし、便器から降りてきた場所に戻ってくると、なぜか縄梯子が外れていた。
「え」
そして状況を飲み込む前に、二人の周りを数人の男達が取り囲んだ。よく見れば先ほど隊を組んでいた戦士、盗賊、そして僧侶たちである。
「おやおや…ロズウィッツさん、体調がすぐれないと言っても」
そしてエルフの魔術師、イーライがその中から進み出た。
「お手洗いがすこし、ながすぎるんじゃありませんか?」
優しそうな笑みを浮かべて、その片手には敵意に光る魔法の杖が握られていた。
肥溜の中に身を躍らせるなどという最低な経験が一体人生で何回あるだろうか。
いや、そういえば子供の時に村の堆肥桶の中に足を突っ込んだことはあったなとエドウィンは唐突に回想した。
―あ、ほら、これはあれだ。死の直前にそれまでの人生が駆け巡るというやつだ。ああ。あのころはよかったなあ…
必死で現実から目をそらすためだろうか、エドウィンの脳は幼少期の他愛もない幻影を張り巡らせた。これはこれで自己防衛本能なのかもしれない。
贋金鋳造工場の金庫を探すため、汲み取り式の便器のほら暗い穴の淵へ入らねばならないという大役をこなすことになったエドウィンは、上からつりさげられた鍵梯子を極力何も考えないように、おり続ける。
黙々と、機械のように手足を動かす若き衛兵は、鼻腔から入った空気が鼻の粘膜に到達した後その情報を脳につたえることを全力で阻止することだけに全神経を注いでいた。
―おい、エド。下には到達したのか?
エドウィンの頭上。便器の入口からロージーが念話を送ってくる。上を向くと髪やら肌に周囲の不快な粘性物質が触れるような気がしたので、エドウィンは体を強張らせて梯子を降りつつ答える。
―まだだ…しかし下までの距離が異様に長いぞ。どういう便所だよ。
―やっぱりな、間違いない。その下は黄金の金庫だぞ!
こいつわかってて茶化してやがるとエドウィンは思ったが、魔術師のその不愉快な冗談には付き合わず、黙々と梯子を下り続けた。
ほどなくして、足が暗闇の底についた。べっちょりしたトラウマものの感触を覚悟していたエドウィンだったが、意外にも靴のかかとはかきん、という金属的な響きを立てた。
真闇で何も見えないが、足の底で地面を探ってみるとどうやら小さな金属が積み重なった小山の上にいるような感覚である。
しゃがみこんで、皮手袋で足元の金属片を一つつまんでみる。円形で薄い。間違いなくそれはコインのようであった。
―ちょっとまてよ・・・もしかして俺は贋金の山の上にいるのか…?
周囲の強烈な臭気も忘れ、エドウィンの心臓が高鳴った。
この金庫室の広さはわからないが、もしこれが全部マズロコイン・・・贋金だとすると途方もない額だということになる。
―チャリ…チャリ…
近くから何か金属が舞うような音が聞こえる。エドウィンは音を殺して抜剣すると暗闇の中をそろそろとそちらの方向へ進んでいった。
コインの山の上だというのに足音を殺して移動できるのは若い時の盗賊の修行の賜物だ。
音のする方向へ少し進んでみると、闇の中でもうっすらと目が見え始めた。だがそれはなにもエドウィンの夜目の能力のおかげではない、腰ほどの高さの中空を数十枚のコインが淡く発行しながら舞飛んでいるのだ。
―クリーピングコイン…
クリーピングコインはコインから作られた魔法生物で、見た目はよだれが出そうな相手であるものの、手ごわいモンスターとして知られる。
財宝を装いダンジョンに潜み、時に旅人や欲深い冒険者を爪弾く恐ろしい相手だ。
しかし、このモンスターは近づいたエドウィンを無視するように徘徊を続けるだけで一向に襲い掛かってこない。本来は非常に好戦的で、かつしつこい性格のモンスターなのだ。
―どういうことだ。
エドウィンは訝しみながら周囲を見回した。するとあちらでもこちらでも、淡く発光したコインの群れが、床一面に敷き詰められたコインの絨毯の上を忙しそうに行き来している。
不審に思ってエドウィンはひとつのクリーピングコイン(奴らは『個体』とはいいずらいがコイン数十枚で一つの群れを構成している。)をつけてみることにした。
『彼』はせわしなく足元のコインを吸い出しながら舞い動き、やがて部屋の隅まで来ると、側溝の中に入っていく。大きめの管の中の水流にざぶざぶと姿を消していくコインモンスターを見て、エドウィンははたと気が付いた。
―この先…水路か?もしかしてここから旧水路の傍流に通じているのかもしれない。
するとここから偽コインは「出荷」されているわけだ。それもクリーピングコインの姿で。
つまりここからディメント王国の広大な地域にまたがる旧水路全域にわたってクリーピングコインが送り出され、途中で朽ちたりそれを倒した迷宮内のモンスターがコインを拾い集め、さらにそのモンスターどもを倒した冒険者がドロップとしてコインを入手するというわけだ。
―たしかにこりゃあ、出所がわからなくて当然だ。もしこれがマズロコインだと看過したとしても冒険者が出会う頃はタダのモンスターが落としたお宝の一片になってる。
エドウィンは自分達ディメント王国騎士団が鎮護すべき国内でこのような狡猾な贋金の流通ルートができていたことに戦慄した。
しかし、ここさえ押さえればこの贋金事件をねじ伏せることができる。あとは…そう、原版か真犯人につながる証拠があれば完璧だ。
「どうした、なにつったってるんだい」
「うおわあ!!」
背後からいきなり声をかけられてエドウィンは仰天して頓狂な声を出してしまった。
いつの間にかロージーが降りて来ていてエドウィンの背後にいたのだ。
「なんてやつだ。お前は盗賊か?足音もなく忍び寄るのはよせ」
取り乱したバツの悪さを隠すようにロージーを非難する。
「ははは。風に運んでもらったのさ。移動も静かでいい。君もどうだ、今から魔術でも学んでみろよ、すこぶる便利だぞ」
見ればロージーは胡坐をかいたまま、中空に浮かぶ敷物の上に座っていた。敷物自体が風の魔法の力で宙に浮いているようだ。そんな奇体な魔術はおよそ見たことがないが、なにかの魔法の応用らしかった。
ふむ、これはお尻がむずむずするのが弱点だな、と一人ごちながらロージーが地面に降り立つ。どうやら魔術の効果が切れたようだ。
「そりゃそうと、お前の言ったように原版の保管もされてないようだぞ。手詰まりになっちまった」
「いいや、探し足りないんだ。それこそどこかに隠し扉でもあるんじゃないのか」
適当なことを言いながら、ロージーはあたりをふらふらと見回した。呑気というか何に付けてもいちいち鷹揚なやつなのだ。
「それよりこのクリーピングコインよくできてるなあ!ここにいるのは魔法で敵性をそがれている使役タイプだな。これなら一緒にいても攻撃されないぞ、可愛いもんだ。」
ほーれうりうりと猫の顎の下を触る様に手近なクリーピングコインと戯れはじめたハーフエルフの魔術師をほっといて、エドウィンはこの秘密の金庫室の探索に専念し始めた。
四方をくまなく見てみると、隅に一脚の木製のテーブルがしつらえてあった。テーブルの上には銀製の両天秤が一つのみ。明らかに怪しい。
天秤の皿には右に数十枚の金貨が乗せられていた。左には何も乗せられていない。当然天秤は傾いており、自身の空の皿に何かを乗せてくれと言わんばかりに左側の皿を大きく持ち上げている。
「おーおー。エド君、なにか面白いものを見つけたな」
ロージーがクリーピングコインをもてあそびながら近寄ってくる。
「ふむ。もしかしたらこれが原版の保管庫のギミックなのかもしれないな」
皿に乗せられている金貨を手に取ってみるとそれは周囲のマズロコインではなく、純正品のアリストクラートコインのようだった。総計五十枚あった。
「つまり釣り合うように、こっち側にマズロコインを乗せろと?簡単なリドルだ」
一般的にアリストクラートコインはマズロコインの1.26倍の比重を持っていると言われている。それならば、50枚のアリストクラートコインにつりあわせるためには63枚のマズロコインを乗せればいいはずだ。
エドウィンは手近なマズロコインを拾い集め、それを数えながら空の皿に乗せて行った。こんなの知っていればクオパティの寺子屋に通う小僧でも解けるリドルだ。
「61…62…」
そして最後の63枚目を乗せようとしたとき、ロージーがエドウィンの手を掴んだ。
「待て、エド。なんかおかしい」
ロージーは柄にもなく、真剣な顔になってテーブルと天秤の周囲をぐるぐるとまわるとうんうんうなりながら何かを考え込んでいた。
「おい、ただの算数リドルじゃないのか?悩む必要なんかないだろ」
「いや…やたら手の込んだ贋金事件の首謀者の仕掛けたリドルにしちゃこれは簡単だ。こいつは他人を莫迦にしてる、お前ら冒険者なんか利用するだけだって思ってるやつだ。それがこんなミエミエなリドルなんかし掛けるかなあ…」
「まあ…だが考えすぎだ、ロージー。どうせ犯人は魔術師だ、魔術師なんてみんなそんなもんだろ。お前らにこの問題が解けるかって思ってるんだ」
「そうだ、魔術師だからだ。彼らは相手よりなにがなんでも頭がよくなくちゃ気が済まないのさ、そういう生き物だ」
全く持って自分の事を棚に上げて、ハーフエルフの魔術師はそういうと、懐からよく磨かれた投擲器の玉をとり出した。ロージーが持ち歩く数少ない物理的な武器の一つだ。
ロージーはその鋼鉄製の弾をテーブルの上に慎重に乗せた。するとつーっと玉はテーブルの上を転がり始める。
「!?」
テーブルは初めから傾いていたのだ。そのことに気が付かずに63枚のコインを乗せたらこの秘密の金庫室の中でデス・トラップが発動したのかもしれない。
「思った通りだ!これはブービートラップだ。莫迦め、僕ら歴戦の『アルグニッツ冒険隊』がこんな初歩的な『マヌケ外し』に引っかかると思ったのか?」
先ほど魔術師を頭の良さを鼻にかける連中だと言っていたその口で、リドルの仕掛け人を罵倒するとロージーは二枚のマズロコインを秤の上に乗せた、総計64枚のコイン。
するとやんぬるかな、秤はぴたりとつりあい、次いでテーブルの脇の壁がずりずりと自動で後退し始めた。ロージーの言うとおり隠し扉が現れたのだ。
「驚いたな、ほんとにこんな隠し扉のあるダンジョンなんてあったのか」
迷宮小説張りの隠し扉の登場にエドウィンが思わずそう感想を述べた。こういうのは現実のダンジョンにはないと思っていたよ。
「ふん、ちんけな謎解きのくせに仕掛けは大掛かりだな…お、思った通りだ。これが原版だな」
隠し扉の部屋の中はほんの小さなスペースになっていて、確かにその中の台座に恭しく金属製の貨幣鋳造用の型版が置かれていた。
「やったな!さあさっさとこんなすえた臭いの場所からは脱出しよう」
自分の部屋以外の場所ではきれい好きのロージーには、ここの匂いはやはり耐えられなかったらしい。
2人はマズロコインの原版を持ち出すと、鍵縄梯子を使って便器から上の階へ戻ろうとした。あとはこれを魔法局に提出して真犯人を洗い出してもらえば一件落着だ。
しかし、便器から降りてきた場所に戻ってくると、なぜか縄梯子が外れていた。
「え」
そして状況を飲み込む前に、二人の周りを数人の男達が取り囲んだ。よく見れば先ほど隊を組んでいた戦士、盗賊、そして僧侶たちである。
「おやおや…ロズウィッツさん、体調がすぐれないと言っても」
そしてエルフの魔術師、イーライがその中から進み出た。
「お手洗いがすこし、ながすぎるんじゃありませんか?」
優しそうな笑みを浮かべて、その片手には敵意に光る魔法の杖が握られていた。
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HN:
ダミ
性別:
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職業:
なんか一生懸命押したり書いたりする仕事
趣味:
ゲーム・縄跳び
自己紹介:
弱い。ひたすら弱い。とにかく弱い
あるときは宝箱の中から爆弾を出すシーフ、またあるときは攻撃の届かないファイター。
ただ皆様の平和と健康と幸福を祈るだけの存在
E-mail:
wizardry_online31jp@yahoo.co.jp
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