このブログは、wizon wizardryonline (ウィザードリィオンライン)のプレイ風景をつづったものです
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ヒーローというのは通気口の中を進んでいってこそだと思うのです。
最近思ったのですが、私の小説の構成成分は4割日曜ロード劇場、2割少年ジャンプ、2割三国志、のこりの2割はみさくらなんこつです。
(前回までのあらすじ)
ひぃー・・・ひぃー・・・どちくしょう
最高の、クリスマスだぜ・・・っくっそー・・・はーはっはっは
第1回【魔術師】はこちら
次回【魔術師】はこちら
ブルースウィルスって何がカッコイイって指としたまつ毛じゃない?
最近思ったのですが、私の小説の構成成分は4割日曜ロード劇場、2割少年ジャンプ、2割三国志、のこりの2割はみさくらなんこつです。
(前回までのあらすじ)
ひぃー・・・ひぃー・・・どちくしょう
最高の、クリスマスだぜ・・・っくっそー・・・はーはっはっは
第1回【魔術師】はこちら
次回【魔術師】はこちら
ブルースウィルスって何がカッコイイって指としたまつ毛じゃない?
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「おい、魔術師、早く仕留めろ!もう戦士がもたねえぞ!」
僧服のノーム男の怒号が下水道の中に鳴り響く、小鬼2匹の攻撃を盾で必死に防ぐ戦士は確かにそろそろ限界のようだ。
「ぼくに命令するな!お前の家来じゃないぞ!」
ハーフエルフの魔術師が詠唱を中断して叫び返す。
―あいつ、何やってんだ。
そんな魔術師を横目で見ながら、エドウィンは槍を構えると、群がって戦士に襲い掛かっている小鬼達に側面から攻撃を加える。初めのひと突きで斧を持った小鬼を突き倒し、返す穂先で剣と盾を持った小鬼を襲った。
「GUGYAGYA!」
まともな防御行動などとる技術を持ち合わせない小鬼だったが、かえってそのめちゃくちゃな防御の仕方が経験を積んだ戦士の槍を狂わせる。エドウィンの突き出した槍は運悪く小鬼の持っていた木製の盾に深々と突き刺さってしまった。槍を引き抜こうにもがっちりと隙間だらけの盾の木目に挟み込まれた槍はびくともしない。
「GOGYA?KYAKYA」
敵の武器を封じて好機と見たのか、小鬼が剣を振りかざしてエドウィンに切りかかった。
―トチッた!?
あわてて槍を捨て距離をとろうとするが、衛兵務めでなまった戦士の勘より、モンスターの野生の殺意の方が若干反応が早かった。死への予感で急激に鋭敏になった感覚の中、エドウィンは数瞬後にあの錆くれた剣が自分の体に突き刺さる光景を垣間見た。
しかしその幻視は現実になることはなく、ごぉうという音とともにいま小鬼がいたばかりの場所を業炎の矢が通り過ぎた。吹きすさぶ熱風がエドウィンの頬を撫で、その後には白目をむいて一瞬でこんがりと焼きあがった小鬼の死体が下水道の舗装のはげたタイルの上に崩れ落ちていた。
「ははは、完璧なタイミングだったぞ。見たか、ぼくの炎矢!」
炎矢を放ったロージーが興奮して叫ぶ。
「なにが見たかだ、さっさと魔法で始末しちまいやがれ!前衛がもう少しで全滅するところだったぞ!」
ノームの僧侶がロージーの胸ぐらをつかまんとする勢いで詰め寄った。しかしハーフエルフの魔術師は涼しい顔でやれやれと肩をすくめている。
「前衛はぼくの盾になるのが仕事だろ?ぼくは後衛としてタイミングを計って魔法で敵を倒したじゃないか、何が問題なんだ?」
さっぱりわからないねとか、これだから低クラスの冒険者はとか言いながらいかに自分の魔法が的確だったか理詰めで言いくるめ始めたロージーを見ていると、こいつが昔からの知り合いじゃなかったら絶対ここで隊を降りていることだろうと思う。
とはいえこれ以上隊のメンバーと仲が悪くなると探索が不可能になってしまいそうだ。事を穏便におさめようと口を開いたエドウィンをさえぎるように、隊のもう一人の魔術師であるエルフの青年が言い争うロージーと僧侶の間に割って入る。
「まあまあ、ロズウィックさんの言うとおり、ちゃんと敵は倒せましたし今回は問題ないじゃないですか」
エルフの青年は物腰柔らかい口調で僧侶と戦士をなだめるとロージーに向き直った。
「でもロズウィックさん、次からは気持ち早めに火力制圧することにしては・・?前衛の皆さんがロズウィックさんの魔法を待ちかねてやきもきしてるようです」
「ん・・・まあそうだね。そういうなら次から少し早く魔法を撃ってもいいかな」
見事な中立な立場での仲裁である。隊の軋轢を一瞬で納めてしまった。あの高慢な性格のロージーまでもが、この青年の言うことを聞いてやんわりと矛を収めている。
「イーライの顔をたてて、今回はこれくらいにしとくけどな…次同じようなことをしたら隊から蹴り出すぞ、わかっただろうな」
ノームの僧侶も角を引っ込めることにしたようだ。その背中に舌を出すロージーにやめろよといってエドウィンは戦闘後の武器の破損状態を確認した。どこまでいっても子供な奴だ、あのエルフの爪の垢でも煎じて飲ませてやりたい。
「みなさん、少し休んでいきましょう。盗賊さん、モンスターの巣の捜索をお願いします」
エルフの青年、魔術師イーライの提案で、賦活魔法のかかったキャンプで休息をとることとなった。思えばもうこのダンジョンを進み始めて12時間、頃合いだ。いちいち頭脳労働者かくあるべきという適切な判断である。
「…さっきは助かりました。ありがとうございます」
エドウィンはキャンプを張る手伝いをしながら、イーライにロージーを取り成してくれた礼を言った。もともとこの四人組の隊にエドウィンとロージーを加えてくれたのも彼だった。イーライがいなければ先ほどの僧侶の言うとおりとっくにエドウィン達は隊から蹴り出されていただろう。
「いいえ…お二人のような冒険者に加わっていただいて、お礼を言うのはこちらの方です。とくにロズウィックさん、彼の魔術の腕は素晴らしいですね。私など足元にも及びません」
いえいえ、うちのロージーの性格はあなたの足元にも及びませんよ、いやむしろプライドの高さでいえば、あいつは誰も足元に寄せ付けませんけどね、などと思いつつエドウィンは苦笑いを浮かべる。
モンスターの巣をごそごそと漁っていたポークルの盗賊が声を上げた。
「おい、宝箱開いたぞ!」
どれどれと隊の連中が集まってきて、宝箱の中を覗き込む。
「っち・・またガラクタと、偽アリストクラートコインか、最近多いな」
エドウィン達は偽コインの出所の探索のため、あれからひと月の間さまざまな隊に加わり、アリア側周辺の支流と旧水路をつなぐダンジョンを探索していた。
件の偽アリストクラートコイン…『マズロコイン』と呼ばれる貨幣は確かに数度モンスターの戦利品に含まれていたが、どれも散発的に少量見つかるだけで、その流出源を特定することはできなかった。
だが確かに戦利品に『マズロコイン』が含まれる確率が高くなっている。ロージーの言っていたことは間違いないとみていいだろうな。
ディメント王国国内では『偽アリストクラートコイン』としてしか一見価値のない『マズロコイン』を大量に流通させ、王国経済に打撃を与えつつ、大金の金洗浄を行う…この悪魔じみた貨幣の魔法を使う偽金の魔術師を発見して捕まえなければならない。
ロージーは冒険のつもりだろうが、エドウィンにしてみれば半ばこれは王国騎士としての義務感で行っていることだった。
「こんな偽アリクラじゃ稼ぎにもならねえ、二束三文だ」
盗賊は即座に『マズロコイン』を偽アリストクラートコインだとみて、親指ではじいて宝箱の中にほおった。それは間違いない、図柄だけ見れば『マズロコイン』は『本物ではないアリストクラークコイン』そのものだからだ。
たしかにこれはマネーロンダリングとしてちょっとした手かもしれない。冒険地のドロップとして冒険者にマズロコインを拾わせる、腕の立つ冒険者であればあるほど一見偽造コインだとしか考えない、それらを拾った冒険者たちはどうするか…?
「おい『アルグニッツ冒険隊』のお二人さんよ。分け前は街に帰って換金してからだ、いいな」
彼らはどんなガラクタだろうと偽造コインだろうと残らず売っぱらう。すれっからしでしみったれた冒険者達は拾ったコインを一枚残らず市場に流してくれる。あとは悠々と市場に出たコインを好事家か古物商を装って二束三文で買い集め、本来の価値ある『マズロコイン』と鑑定してくれる当局で大金にかえればいい。
何しろディメント王国は主産業が冒険者の輸出といわれるほど冒険者が多いのだ。彼らに一斉にマズロコインを拾わせれば相当の量のロンダリングが行えるはずだ。
―大したもんだぜ。真犯人さん。
このアリア川から旧水路に連なるダンジョンのどこかにマズロコインを戦利品に混ぜながらロンダリングしている連中がいる可能性が高かった。ロージーの調査によればマズロコインがよく見つかるのはここから旧水路にかけてなのだ。
「…またはずれですか、仕方ないですね。休息をとったら先に進みましょう」
そんな様子を見て、イーライが微笑んだ。
「・・・」
後方でマッピングを請けもっていたロージーが自作の地図から目をはなし、あたりを見回している。
「どうした、なにかわかりそうか」
「うーむ・・・ここら辺の構造が無駄に回廊状になっているんだよな。もしかしたら、隠し部屋があるのかもしれない」
金貨を鋳造するためには鋳造機が必要だ。王国の目を逃れて鋳造機を設置した場所がダンジョンのどこかにあるはず。ロージーはそう考えていた。
「よし、少し調べてみよう」
エドウィンはそろそろ出発し掛けている隊のメンバーに向き直る。
「すいませんみなさん、先に進んでいてください。どうもこいつの体調がすぐれないようで…後で追いつきますから」
「かまわんが、お前らがいないときの戦利品は分け前に含めないぞ」
ナイフで切り分けた干し肉をつっついていた盗賊がそう釘を刺した。いつでも気になるのはお宝の分け前の事だけ、絵にかいたような正しい冒険者の姿だ。
「もちろん!いや~お宝を逃しちゃうかもな~残念、残念」
「では、後程合流を。私たちは先に出発しましょう」
エドウィンも欲深い冒険者風に調子を合わせ、イーライに伴われ出立する彼らを見送ってから怪しげな構造をしているという箇所の検索に移った。
確かにここらは不自然に回廊状になっている、なにか別の構築物が地図で黒く開いたフリースペースに収まっていそうな感じだ。
「問題はどうやって入るかなんだよな…」
一通り壁をまさぐってみたが簡単には隠し部屋の入口など見つかりそうにない。額を汗が伝う。兜を脱いで、地下の熱気で蒸れた頭を掻いた。
―…一度でいいから色の違うレンガを押したら隠し扉の壁が反転する仕掛けを見てみたいものだぜ。
それは冒険者小説によく出てくる隠し部屋を見つけるシーンでおなじみの光景だ。だが実際冒険者になってみてそんなわかりやすい仕掛けになどであったことはない。
つくづくああいうのは子供向けの三文小説の中のものだったんだなと思い知らされる。子供のころはああいうのが満載なのが冒険だと思っていた。だが実際の冒険地での冒険や探索は、暑く、臭く、地味で、骨の折れるものばっかりだった。
―しかしここは暑いな。まだそんなに地下でもないはずなのに。
冒険者を苦しめるものの一つに、暑さがあった。地下にあることが多いダンジョンは多かれ少なかれ地熱で温められており、相当うだるのだ。特に分厚い鎧を着こなさなければならない戦士にはこの暑さと蒸れは大敵だった。
ふと見るとロージーがじっと天井付近に目を凝らしていた。
「なあエド。ここ、かなり暑くないか」
「ん・・たしかにな。ここを作った迷宮職人が排熱と換気機構を失敗したんだろう。まるで蒸し風呂みたいだ。」
パタパタと手扇で扇ぎながらエドウィンは答える。欠陥ダンジョンにはよくあることだ。天井付近に大量に備え付けられた排熱口が全く役に立っていない。みれば排熱口の入口も蒸気で陽炎っている。まったく、あれじゃあまるでダンジョンの中に排熱しているようだ。これじゃあべこべだ。
そこまで考えて、エドウィンははたと気が付いた。
「いや、あれはダンジョンの排熱口じゃないんじゃないか?むしろほんとにあれはこちら側に排熱をしているんじゃないのか?」
「そおだ!あれはおそらく造幣機が置いてある部屋からこちら側に排気しているのだ!造幣には金を鋳溶かすため大量の火が必要だからな!こんな場所では相当気張って排熱をしているはずだ…ということは、あれを伝っていけば目的の部屋に行けるかもしれないぞ」
実際のダンジョンの探索は、暑く、臭く、骨の折れるものなのだ。
エドウィンは肩を落とすと、熱風の吹き出す排熱口に潜り込む決心をせざるを得なかった。
ずりずりと尺取虫のように体を少しずつ前に進ませる。
エドウィンとロージーが潜り込んだ排熱口は想像を絶する暑さと狭さだった。なんとかつっかえずに先に進めるが、常に顔面に向かって吹き付けてくる熱気で鼻腔の中がカラカラに乾燥して痛いことこの上ない。覆布で一応顔を覆っているものの、熱気と臭気で気が変になりそうだった。
「おい、エド。もうちょっと早く進めよ。君の尻を見ながら年をとっちゃいそうだ」
エドウィンを熱風最前線に立たせながら、後ろから進んでくるロージーの声が排気管の中にこだました。ほんとにどこでもよくしゃべるやつだ、そしてその内容は99%何者かへの不満か勝手な言い草だ。
「狭いんだよ。文句いうな」
「え?なんだって!?」
後ろを向く余裕もない空間なので自然エドウィンは声を出しても聞こえず、一方的にロージーのわめき声ばかりが前方を進むエドウィンを襲う。最悪である。尻にも文句を言う機能をつけてくださらなかったアヴルール神を恨むばかりだ。
ほどなく灼熱地獄の中を進むと、吹き付ける熱風の中に冷気が混じるようになった。間違いなくこの先に広い空間が、排気管の終わりがあるようだった。
―静かにしろ。もうすぐ出口が近い。
そう後ろを進むロージーに念話を送ると、エドウィンは必至で前進し、ついに格子の向こうに見下ろすように部屋がみえる場所までたどり着いた。排気管の出口、排熱管本来の機能からすれば風入口に到達したのだ。
そっと伺うと下で何かの機械が稼働しているような音が聞こえる、それに混じって数人の男たちの話し声も聞こえるようだ。
―やったぞロージー。大当たりだ。この下は鋳造機の稼働している部屋みたいだぞ。
喜んで念話を送るエドウィンだったが、これから先のことに思い至って真っ青になった。
―おい、下には数人の男たちがいるようだ。どうするロージー。
―そうか!じゃあそいつらが寝るかどこかに行くまでここで待機だ。
―まさか!?このままここでか?冗談じゃない、蒸されて俺が死んじまう。一旦さっきの通路に戻ろう。
―ははは、馬鹿だなあ。進むのもやっとだったのに後退ができるわけないだろ?こおんなこともあろうかと水筒も携帯食も持ってきた、君の尻を見ながら待たせてもらうことにするよ。
おおっと、長いこと待つにしたってアレだけは勘弁だぜ。とか言いながら体の隙間から水筒や携帯食を前に差し出す魔術師に歯噛みしながら。エドウィンは包みを受け取った。
結果、二人で管に詰まったままの姿勢で3~4時間は居ただろうか。どうやら鋳造がいったん停止して男たちがどこかへ去るまで『アルグニッツ冒険隊』は熱気口のなかで待ち続けた。
「これがほんとの管詰めだな」
途中さんざ念話で退屈しのぎにはなしかけられ、飽きると氷の魔法で即席の氷嚢を作り枕にして寝たりしていたロージーと違って、ずっと前方の様子を伺っていたエドウィンはもはや憔悴の極みだった。格子をあけ、持ってきた鉤縄で下に降りるころにはハーフエルフの冗談に愛想笑いすら浮かべられる気力も残っていなかった。
しかし、本当に鋳造機があるとは。2人の目の前には鋳金に使う機械が堂々とおいてある。半信半疑で乗り出した贋金事件の捜索だったが、ここに来てやっと核心にたどり着いた。後はこの場所を魔法局に通報するだけだ。だがそういうとロージーはかぶりを振った。
「そんなことするだけじゃだめさ。やつ腹どもはトカゲのしっぽを切る様にまた場所を変えてマズロコインの鋳造に精を出すだけだよ。首根っこを押さえなきゃ」
「首根っこってなんだ」
「原版に決まってるだろ。鋳造機だけでもある程度の証拠になるが、マズロコインの原版そのものが抑えられたら黒幕が誰かはっきりする、トカゲの胴体を鷲つかみだ!」
確かにその通りかもしれない。だが、偽造金貨の原版なんて超厳重に保管されていることだろう、例えもしこの場所で見つかったとしても幾重にもセキュリティがかけられている可能性は高かった。
ともかくさっきの男たちがいつ帰ってくるともしれない。エドウィンとロージーは手分けして鋳造部屋を調べたが、魔力源の切れた鋳造機のほかには金を鋳溶かす釜があり、部屋の中には不釣り合いな精巧なテーブルと秤、鋳造したコインの精度を確かめるためだろう数々の型板や分銅がきっちりしまわれているばかりで原版は見つからなかった。
「よし、ほかのところも調べてみよう」
2人は鋳造室をでると、慎重にこの秘密の造幣局の居住空間の探索を開始した。あまり広い場所ではない。
鋳造室を中心に廊下があり、突き当りの扉に寝所だか厨房だかがあるような気配だ。あとは便所と衛生所の様な扉のない石組みの部屋が見える。上に登っていく狭くて急な階段は地上への出口だろうか。エドウィンは昔かじった盗賊の技を駆使して足音を殺し、まず奥の扉に近づいて中の様子を伺う。
どうやら部屋の中では二人の男が寝息を立てていた。一日中ここでマズロコインを鋳造して疲れ切っている様子だ。大いびきを立てて寝ている。寝室の外で多少音を立てようが起きる気配はない。
―エド、アレは見つかったか?
―アレ?
念話で話しかけてきたロージーにエドウィンが返す。
―鈍いな、君も。贋金を作っているんだろ。作った大量のコインはどうすると思う?
そうだ、何かが足りないと思っていたら金庫だ。しかしここにはそんなものは見当たらない。
普通なら頑丈な扉を備え付けた金庫室に金貨を仕舞い込むはずである。しかしそんなものがある気配は微塵もない。いったい鋳造した大量の金貨はどこに消えたのだろうか。
地上に運び出したか?いや、先ほど見た急な階段は重い金を持って上がり降りするには不向きだ。ではどこかに昇降機付きの金庫室があるはずだった。
「うーん。困ったな」
ロージーも頭を抱えているようだった。こんな地下の造幣所で、作った傍から金を運び出すことは確かに大規模な魔法を使えば可能かもしれない。だがそのような魔法の気配があればロージーがいち早く気が付くはずだ。ここにきても何かトリックがあるのだろうか。
「ためらわれる…場所の目星はついてるんだけどな」
ほんとうか?早く行こう。エドウィンはそう聞いて興奮気味に答えた。
普段は居るだけで「こいつ早くロストしてくれないかな」と思うようなハーフエルフの魔術師だったが、困ったときに知恵を借りるには異常に頼りになる。それがまたロージーの厄介なところだったが。
ロージーは黙ってエドウィンを便所と思しき部屋に連れて行った。
おぞましい臭気を放つ便器が一つだけ備え付けられている。どうやら汲み取り式のようだ、便器の中には深くて暗い穴が見えるのみ。
「まさか…だよな?」
「はやくいきたいっていったよね。君。」
確かにいかに重い金でも上に運ぶより下に落とした方が早い。短時間で大量の物資を輸送するには高所から墜落させた方が手っ取り早いのだ。だがこの下が金庫室になっているとでもいうのだろうか。黄金が山と積まれていると?エドウィンはくらくらしながら、今から自分がやらされるであろう最低の調査を思った。
「あの…魔法で匂いは消せるから。それに墜落の衝撃も緩和してあげられるから」
さすがに気の毒そうな顔をする魔術師に呪詛のこもった視線を送ると、エドウィンは便器の暗い闇の中を再度覗き込んだ。
いつも思い知らされる。冒険は暑くて、臭くて、骨の折れるものなのだ。
次回【魔術師】はこちら
「おい、魔術師、早く仕留めろ!もう戦士がもたねえぞ!」
僧服のノーム男の怒号が下水道の中に鳴り響く、小鬼2匹の攻撃を盾で必死に防ぐ戦士は確かにそろそろ限界のようだ。
「ぼくに命令するな!お前の家来じゃないぞ!」
ハーフエルフの魔術師が詠唱を中断して叫び返す。
―あいつ、何やってんだ。
そんな魔術師を横目で見ながら、エドウィンは槍を構えると、群がって戦士に襲い掛かっている小鬼達に側面から攻撃を加える。初めのひと突きで斧を持った小鬼を突き倒し、返す穂先で剣と盾を持った小鬼を襲った。
「GUGYAGYA!」
まともな防御行動などとる技術を持ち合わせない小鬼だったが、かえってそのめちゃくちゃな防御の仕方が経験を積んだ戦士の槍を狂わせる。エドウィンの突き出した槍は運悪く小鬼の持っていた木製の盾に深々と突き刺さってしまった。槍を引き抜こうにもがっちりと隙間だらけの盾の木目に挟み込まれた槍はびくともしない。
「GOGYA?KYAKYA」
敵の武器を封じて好機と見たのか、小鬼が剣を振りかざしてエドウィンに切りかかった。
―トチッた!?
あわてて槍を捨て距離をとろうとするが、衛兵務めでなまった戦士の勘より、モンスターの野生の殺意の方が若干反応が早かった。死への予感で急激に鋭敏になった感覚の中、エドウィンは数瞬後にあの錆くれた剣が自分の体に突き刺さる光景を垣間見た。
しかしその幻視は現実になることはなく、ごぉうという音とともにいま小鬼がいたばかりの場所を業炎の矢が通り過ぎた。吹きすさぶ熱風がエドウィンの頬を撫で、その後には白目をむいて一瞬でこんがりと焼きあがった小鬼の死体が下水道の舗装のはげたタイルの上に崩れ落ちていた。
「ははは、完璧なタイミングだったぞ。見たか、ぼくの炎矢!」
炎矢を放ったロージーが興奮して叫ぶ。
「なにが見たかだ、さっさと魔法で始末しちまいやがれ!前衛がもう少しで全滅するところだったぞ!」
ノームの僧侶がロージーの胸ぐらをつかまんとする勢いで詰め寄った。しかしハーフエルフの魔術師は涼しい顔でやれやれと肩をすくめている。
「前衛はぼくの盾になるのが仕事だろ?ぼくは後衛としてタイミングを計って魔法で敵を倒したじゃないか、何が問題なんだ?」
さっぱりわからないねとか、これだから低クラスの冒険者はとか言いながらいかに自分の魔法が的確だったか理詰めで言いくるめ始めたロージーを見ていると、こいつが昔からの知り合いじゃなかったら絶対ここで隊を降りていることだろうと思う。
とはいえこれ以上隊のメンバーと仲が悪くなると探索が不可能になってしまいそうだ。事を穏便におさめようと口を開いたエドウィンをさえぎるように、隊のもう一人の魔術師であるエルフの青年が言い争うロージーと僧侶の間に割って入る。
「まあまあ、ロズウィックさんの言うとおり、ちゃんと敵は倒せましたし今回は問題ないじゃないですか」
エルフの青年は物腰柔らかい口調で僧侶と戦士をなだめるとロージーに向き直った。
「でもロズウィックさん、次からは気持ち早めに火力制圧することにしては・・?前衛の皆さんがロズウィックさんの魔法を待ちかねてやきもきしてるようです」
「ん・・・まあそうだね。そういうなら次から少し早く魔法を撃ってもいいかな」
見事な中立な立場での仲裁である。隊の軋轢を一瞬で納めてしまった。あの高慢な性格のロージーまでもが、この青年の言うことを聞いてやんわりと矛を収めている。
「イーライの顔をたてて、今回はこれくらいにしとくけどな…次同じようなことをしたら隊から蹴り出すぞ、わかっただろうな」
ノームの僧侶も角を引っ込めることにしたようだ。その背中に舌を出すロージーにやめろよといってエドウィンは戦闘後の武器の破損状態を確認した。どこまでいっても子供な奴だ、あのエルフの爪の垢でも煎じて飲ませてやりたい。
「みなさん、少し休んでいきましょう。盗賊さん、モンスターの巣の捜索をお願いします」
エルフの青年、魔術師イーライの提案で、賦活魔法のかかったキャンプで休息をとることとなった。思えばもうこのダンジョンを進み始めて12時間、頃合いだ。いちいち頭脳労働者かくあるべきという適切な判断である。
「…さっきは助かりました。ありがとうございます」
エドウィンはキャンプを張る手伝いをしながら、イーライにロージーを取り成してくれた礼を言った。もともとこの四人組の隊にエドウィンとロージーを加えてくれたのも彼だった。イーライがいなければ先ほどの僧侶の言うとおりとっくにエドウィン達は隊から蹴り出されていただろう。
「いいえ…お二人のような冒険者に加わっていただいて、お礼を言うのはこちらの方です。とくにロズウィックさん、彼の魔術の腕は素晴らしいですね。私など足元にも及びません」
いえいえ、うちのロージーの性格はあなたの足元にも及びませんよ、いやむしろプライドの高さでいえば、あいつは誰も足元に寄せ付けませんけどね、などと思いつつエドウィンは苦笑いを浮かべる。
モンスターの巣をごそごそと漁っていたポークルの盗賊が声を上げた。
「おい、宝箱開いたぞ!」
どれどれと隊の連中が集まってきて、宝箱の中を覗き込む。
「っち・・またガラクタと、偽アリストクラートコインか、最近多いな」
エドウィン達は偽コインの出所の探索のため、あれからひと月の間さまざまな隊に加わり、アリア側周辺の支流と旧水路をつなぐダンジョンを探索していた。
件の偽アリストクラートコイン…『マズロコイン』と呼ばれる貨幣は確かに数度モンスターの戦利品に含まれていたが、どれも散発的に少量見つかるだけで、その流出源を特定することはできなかった。
だが確かに戦利品に『マズロコイン』が含まれる確率が高くなっている。ロージーの言っていたことは間違いないとみていいだろうな。
ディメント王国国内では『偽アリストクラートコイン』としてしか一見価値のない『マズロコイン』を大量に流通させ、王国経済に打撃を与えつつ、大金の金洗浄を行う…この悪魔じみた貨幣の魔法を使う偽金の魔術師を発見して捕まえなければならない。
ロージーは冒険のつもりだろうが、エドウィンにしてみれば半ばこれは王国騎士としての義務感で行っていることだった。
「こんな偽アリクラじゃ稼ぎにもならねえ、二束三文だ」
盗賊は即座に『マズロコイン』を偽アリストクラートコインだとみて、親指ではじいて宝箱の中にほおった。それは間違いない、図柄だけ見れば『マズロコイン』は『本物ではないアリストクラークコイン』そのものだからだ。
たしかにこれはマネーロンダリングとしてちょっとした手かもしれない。冒険地のドロップとして冒険者にマズロコインを拾わせる、腕の立つ冒険者であればあるほど一見偽造コインだとしか考えない、それらを拾った冒険者たちはどうするか…?
「おい『アルグニッツ冒険隊』のお二人さんよ。分け前は街に帰って換金してからだ、いいな」
彼らはどんなガラクタだろうと偽造コインだろうと残らず売っぱらう。すれっからしでしみったれた冒険者達は拾ったコインを一枚残らず市場に流してくれる。あとは悠々と市場に出たコインを好事家か古物商を装って二束三文で買い集め、本来の価値ある『マズロコイン』と鑑定してくれる当局で大金にかえればいい。
何しろディメント王国は主産業が冒険者の輸出といわれるほど冒険者が多いのだ。彼らに一斉にマズロコインを拾わせれば相当の量のロンダリングが行えるはずだ。
―大したもんだぜ。真犯人さん。
このアリア川から旧水路に連なるダンジョンのどこかにマズロコインを戦利品に混ぜながらロンダリングしている連中がいる可能性が高かった。ロージーの調査によればマズロコインがよく見つかるのはここから旧水路にかけてなのだ。
「…またはずれですか、仕方ないですね。休息をとったら先に進みましょう」
そんな様子を見て、イーライが微笑んだ。
「・・・」
後方でマッピングを請けもっていたロージーが自作の地図から目をはなし、あたりを見回している。
「どうした、なにかわかりそうか」
「うーむ・・・ここら辺の構造が無駄に回廊状になっているんだよな。もしかしたら、隠し部屋があるのかもしれない」
金貨を鋳造するためには鋳造機が必要だ。王国の目を逃れて鋳造機を設置した場所がダンジョンのどこかにあるはず。ロージーはそう考えていた。
「よし、少し調べてみよう」
エドウィンはそろそろ出発し掛けている隊のメンバーに向き直る。
「すいませんみなさん、先に進んでいてください。どうもこいつの体調がすぐれないようで…後で追いつきますから」
「かまわんが、お前らがいないときの戦利品は分け前に含めないぞ」
ナイフで切り分けた干し肉をつっついていた盗賊がそう釘を刺した。いつでも気になるのはお宝の分け前の事だけ、絵にかいたような正しい冒険者の姿だ。
「もちろん!いや~お宝を逃しちゃうかもな~残念、残念」
「では、後程合流を。私たちは先に出発しましょう」
エドウィンも欲深い冒険者風に調子を合わせ、イーライに伴われ出立する彼らを見送ってから怪しげな構造をしているという箇所の検索に移った。
確かにここらは不自然に回廊状になっている、なにか別の構築物が地図で黒く開いたフリースペースに収まっていそうな感じだ。
「問題はどうやって入るかなんだよな…」
一通り壁をまさぐってみたが簡単には隠し部屋の入口など見つかりそうにない。額を汗が伝う。兜を脱いで、地下の熱気で蒸れた頭を掻いた。
―…一度でいいから色の違うレンガを押したら隠し扉の壁が反転する仕掛けを見てみたいものだぜ。
それは冒険者小説によく出てくる隠し部屋を見つけるシーンでおなじみの光景だ。だが実際冒険者になってみてそんなわかりやすい仕掛けになどであったことはない。
つくづくああいうのは子供向けの三文小説の中のものだったんだなと思い知らされる。子供のころはああいうのが満載なのが冒険だと思っていた。だが実際の冒険地での冒険や探索は、暑く、臭く、地味で、骨の折れるものばっかりだった。
―しかしここは暑いな。まだそんなに地下でもないはずなのに。
冒険者を苦しめるものの一つに、暑さがあった。地下にあることが多いダンジョンは多かれ少なかれ地熱で温められており、相当うだるのだ。特に分厚い鎧を着こなさなければならない戦士にはこの暑さと蒸れは大敵だった。
ふと見るとロージーがじっと天井付近に目を凝らしていた。
「なあエド。ここ、かなり暑くないか」
「ん・・たしかにな。ここを作った迷宮職人が排熱と換気機構を失敗したんだろう。まるで蒸し風呂みたいだ。」
パタパタと手扇で扇ぎながらエドウィンは答える。欠陥ダンジョンにはよくあることだ。天井付近に大量に備え付けられた排熱口が全く役に立っていない。みれば排熱口の入口も蒸気で陽炎っている。まったく、あれじゃあまるでダンジョンの中に排熱しているようだ。これじゃあべこべだ。
そこまで考えて、エドウィンははたと気が付いた。
「いや、あれはダンジョンの排熱口じゃないんじゃないか?むしろほんとにあれはこちら側に排熱をしているんじゃないのか?」
「そおだ!あれはおそらく造幣機が置いてある部屋からこちら側に排気しているのだ!造幣には金を鋳溶かすため大量の火が必要だからな!こんな場所では相当気張って排熱をしているはずだ…ということは、あれを伝っていけば目的の部屋に行けるかもしれないぞ」
実際のダンジョンの探索は、暑く、臭く、骨の折れるものなのだ。
エドウィンは肩を落とすと、熱風の吹き出す排熱口に潜り込む決心をせざるを得なかった。
ずりずりと尺取虫のように体を少しずつ前に進ませる。
エドウィンとロージーが潜り込んだ排熱口は想像を絶する暑さと狭さだった。なんとかつっかえずに先に進めるが、常に顔面に向かって吹き付けてくる熱気で鼻腔の中がカラカラに乾燥して痛いことこの上ない。覆布で一応顔を覆っているものの、熱気と臭気で気が変になりそうだった。
「おい、エド。もうちょっと早く進めよ。君の尻を見ながら年をとっちゃいそうだ」
エドウィンを熱風最前線に立たせながら、後ろから進んでくるロージーの声が排気管の中にこだました。ほんとにどこでもよくしゃべるやつだ、そしてその内容は99%何者かへの不満か勝手な言い草だ。
「狭いんだよ。文句いうな」
「え?なんだって!?」
後ろを向く余裕もない空間なので自然エドウィンは声を出しても聞こえず、一方的にロージーのわめき声ばかりが前方を進むエドウィンを襲う。最悪である。尻にも文句を言う機能をつけてくださらなかったアヴルール神を恨むばかりだ。
ほどなく灼熱地獄の中を進むと、吹き付ける熱風の中に冷気が混じるようになった。間違いなくこの先に広い空間が、排気管の終わりがあるようだった。
―静かにしろ。もうすぐ出口が近い。
そう後ろを進むロージーに念話を送ると、エドウィンは必至で前進し、ついに格子の向こうに見下ろすように部屋がみえる場所までたどり着いた。排気管の出口、排熱管本来の機能からすれば風入口に到達したのだ。
そっと伺うと下で何かの機械が稼働しているような音が聞こえる、それに混じって数人の男たちの話し声も聞こえるようだ。
―やったぞロージー。大当たりだ。この下は鋳造機の稼働している部屋みたいだぞ。
喜んで念話を送るエドウィンだったが、これから先のことに思い至って真っ青になった。
―おい、下には数人の男たちがいるようだ。どうするロージー。
―そうか!じゃあそいつらが寝るかどこかに行くまでここで待機だ。
―まさか!?このままここでか?冗談じゃない、蒸されて俺が死んじまう。一旦さっきの通路に戻ろう。
―ははは、馬鹿だなあ。進むのもやっとだったのに後退ができるわけないだろ?こおんなこともあろうかと水筒も携帯食も持ってきた、君の尻を見ながら待たせてもらうことにするよ。
おおっと、長いこと待つにしたってアレだけは勘弁だぜ。とか言いながら体の隙間から水筒や携帯食を前に差し出す魔術師に歯噛みしながら。エドウィンは包みを受け取った。
結果、二人で管に詰まったままの姿勢で3~4時間は居ただろうか。どうやら鋳造がいったん停止して男たちがどこかへ去るまで『アルグニッツ冒険隊』は熱気口のなかで待ち続けた。
「これがほんとの管詰めだな」
途中さんざ念話で退屈しのぎにはなしかけられ、飽きると氷の魔法で即席の氷嚢を作り枕にして寝たりしていたロージーと違って、ずっと前方の様子を伺っていたエドウィンはもはや憔悴の極みだった。格子をあけ、持ってきた鉤縄で下に降りるころにはハーフエルフの冗談に愛想笑いすら浮かべられる気力も残っていなかった。
しかし、本当に鋳造機があるとは。2人の目の前には鋳金に使う機械が堂々とおいてある。半信半疑で乗り出した贋金事件の捜索だったが、ここに来てやっと核心にたどり着いた。後はこの場所を魔法局に通報するだけだ。だがそういうとロージーはかぶりを振った。
「そんなことするだけじゃだめさ。やつ腹どもはトカゲのしっぽを切る様にまた場所を変えてマズロコインの鋳造に精を出すだけだよ。首根っこを押さえなきゃ」
「首根っこってなんだ」
「原版に決まってるだろ。鋳造機だけでもある程度の証拠になるが、マズロコインの原版そのものが抑えられたら黒幕が誰かはっきりする、トカゲの胴体を鷲つかみだ!」
確かにその通りかもしれない。だが、偽造金貨の原版なんて超厳重に保管されていることだろう、例えもしこの場所で見つかったとしても幾重にもセキュリティがかけられている可能性は高かった。
ともかくさっきの男たちがいつ帰ってくるともしれない。エドウィンとロージーは手分けして鋳造部屋を調べたが、魔力源の切れた鋳造機のほかには金を鋳溶かす釜があり、部屋の中には不釣り合いな精巧なテーブルと秤、鋳造したコインの精度を確かめるためだろう数々の型板や分銅がきっちりしまわれているばかりで原版は見つからなかった。
「よし、ほかのところも調べてみよう」
2人は鋳造室をでると、慎重にこの秘密の造幣局の居住空間の探索を開始した。あまり広い場所ではない。
鋳造室を中心に廊下があり、突き当りの扉に寝所だか厨房だかがあるような気配だ。あとは便所と衛生所の様な扉のない石組みの部屋が見える。上に登っていく狭くて急な階段は地上への出口だろうか。エドウィンは昔かじった盗賊の技を駆使して足音を殺し、まず奥の扉に近づいて中の様子を伺う。
どうやら部屋の中では二人の男が寝息を立てていた。一日中ここでマズロコインを鋳造して疲れ切っている様子だ。大いびきを立てて寝ている。寝室の外で多少音を立てようが起きる気配はない。
―エド、アレは見つかったか?
―アレ?
念話で話しかけてきたロージーにエドウィンが返す。
―鈍いな、君も。贋金を作っているんだろ。作った大量のコインはどうすると思う?
そうだ、何かが足りないと思っていたら金庫だ。しかしここにはそんなものは見当たらない。
普通なら頑丈な扉を備え付けた金庫室に金貨を仕舞い込むはずである。しかしそんなものがある気配は微塵もない。いったい鋳造した大量の金貨はどこに消えたのだろうか。
地上に運び出したか?いや、先ほど見た急な階段は重い金を持って上がり降りするには不向きだ。ではどこかに昇降機付きの金庫室があるはずだった。
「うーん。困ったな」
ロージーも頭を抱えているようだった。こんな地下の造幣所で、作った傍から金を運び出すことは確かに大規模な魔法を使えば可能かもしれない。だがそのような魔法の気配があればロージーがいち早く気が付くはずだ。ここにきても何かトリックがあるのだろうか。
「ためらわれる…場所の目星はついてるんだけどな」
ほんとうか?早く行こう。エドウィンはそう聞いて興奮気味に答えた。
普段は居るだけで「こいつ早くロストしてくれないかな」と思うようなハーフエルフの魔術師だったが、困ったときに知恵を借りるには異常に頼りになる。それがまたロージーの厄介なところだったが。
ロージーは黙ってエドウィンを便所と思しき部屋に連れて行った。
おぞましい臭気を放つ便器が一つだけ備え付けられている。どうやら汲み取り式のようだ、便器の中には深くて暗い穴が見えるのみ。
「まさか…だよな?」
「はやくいきたいっていったよね。君。」
確かにいかに重い金でも上に運ぶより下に落とした方が早い。短時間で大量の物資を輸送するには高所から墜落させた方が手っ取り早いのだ。だがこの下が金庫室になっているとでもいうのだろうか。黄金が山と積まれていると?エドウィンはくらくらしながら、今から自分がやらされるであろう最低の調査を思った。
「あの…魔法で匂いは消せるから。それに墜落の衝撃も緩和してあげられるから」
さすがに気の毒そうな顔をする魔術師に呪詛のこもった視線を送ると、エドウィンは便器の暗い闇の中を再度覗き込んだ。
いつも思い知らされる。冒険は暑くて、臭くて、骨の折れるものなのだ。
次回【魔術師】はこちら
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あるときは宝箱の中から爆弾を出すシーフ、またあるときは攻撃の届かないファイター。
ただ皆様の平和と健康と幸福を祈るだけの存在
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