このブログは、wizon wizardryonline (ウィザードリィオンライン)のプレイ風景をつづったものです
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子供のころ、シャーロックホームズよりワトソン博士のほうが好きでした。
だって、ホームズって変人だし付き合いにくそうなんだもん。
(前回までのあらすじ)
ホームズは火かき棒でゆっくりと暖炉の火をかき混ぜた。
「ああ・・・暖かくなってきたよ、熱くないかいワトソン・・・」
「ところで今度の僕の変装なんだけど、これを見てどう思う?」
「すごく・・・物乞いです」
モーリアティ「捜査にいけよ、薔薇野郎ども」
次回【魔術師】⑤はこちら
第一回【魔術師】はこちら
だって、ホームズって変人だし付き合いにくそうなんだもん。
(前回までのあらすじ)
ホームズは火かき棒でゆっくりと暖炉の火をかき混ぜた。
「ああ・・・暖かくなってきたよ、熱くないかいワトソン・・・」
「ところで今度の僕の変装なんだけど、これを見てどう思う?」
「すごく・・・物乞いです」
モーリアティ「捜査にいけよ、薔薇野郎ども」
次回【魔術師】⑤はこちら
第一回【魔術師】はこちら
**************************************
ドアを開けてその顔を見た時、昔飼っていた飼い猫が捕まえたネズミを咥えて見せに来た光景を思い出した。
『どうだ』と言わんばかりに獲物を誇らしげに咥え、飼い主の眼前にペッと吐き捨てるあの時の表情だ。
「やあエド!失職した友人のためにぼくが仕事を持ってきてやったぞ!」
どこからエドウィンが出仕を禁止されて家にいることを聞きつけたのか。
エドウィンがドアを閉めるより早く、ロージーは喜色満面といった様子でズカズカとアパートに上がり込む。
なんだ久しぶりに来たがあんまり変わっていないなとか言いながら、勝手に食糧庫に顔を突っ込むと次に出てきたときには両手に葡萄酒のボトルとワイングラス、そして小脇にはエドウィンが大切に残しておいたクオパティ法制院産の乾酪やハムを抱えていた。
「おいおい、勘弁しろよ。何しに来たんだ?飯をたかるつもりか・・・」
エドウィンの弱々しい抗議を無視して、ハーフエルフの魔術師はどっかりとソファーに腰を下ろしボトルの中身をなみなみとグラスにぶちまけながら言った。
「人の話を聞いてないのか?ぼくは仕事を持ってきたといっただろう。この前のお返しだ!義理堅い友人を持ったことを光栄に思いたまえ」
そう言いつつロージーは真っ赤な葡萄酒の入ったグラスを高く掲げた。
「ええとじゃあ何に乾杯しようかな。わが友エドウィン・コナリスの退屈な衛兵稼業の終焉と、これから始まる冒険に!」
勝手に一人で乾杯してグラスを干し、二杯目を注ぎにかかるロージーの手からワインボトルをひったくると、エドウィンは訂正した。
「衛兵はクビになったわけじゃない。みつきの間の出仕禁止だけだ。」
「しぶといな。だが当面収入がないことにはかわりないだろ。結局、おなじことじゃないか!内職が必要だろう、はははは」
癇に障る高笑いを聞いて胃の腑に穴が開く気分がする。だが、ロージーの言うことも認めざるを得ない。
エドウィンが先日任務の最中に酒場で起こした乱闘は、相棒で先任仕官のバナバスが駆けつけて現場を収集してくれたおかげでどうにか大事に至らなかった。さらに騎士団の追放処分もギリギリ免れた。乱闘相手が冒険者だったことと、バナバスが報告書で上官に取り成してくれたおかげだった。
だが巡回任務中に私闘を起こした咎は見過ごされず、三か月の出仕禁止とその間の俸禄停止が言い渡された。つらい沙汰だったが、やったことの内容からしてみれば、これでもアヴルールの采配と言えなくもなかった。
問題はロージーの言うとおりしばらくの間どうにかして口に糊をしなければならないことだ。
「自宅謹慎でもないんだろ?うちに引きこもってばっかりじゃあ腐っちまうぞ、エドウィン君!とりあえずこれを見ろ」
この前まで自分がそうだったくせに、いけしゃあしゃあとそういうと、ロージーは一枚の羊皮紙を広げた。
「なんだこいつは」
「ぼくがとってきた、冒険者ギルドからの仕事の依頼だ」
羊皮紙には、冒険者に対してギルドが発行するクエストの依頼内容が書かれていた。素早く目を通してみると、どうやら最近ディメント王国国内のダンジョンでよく発見されるアリストクラートコインの回収依頼だった。規定枚数を発見して報告書とともに冒険者ギルドに納めてくれというものだ。
ちなみにクエストの請負人には勝手に『アルグニッツ冒険隊』エドウィン・コナリスと署名がされている。複雑な気分だった。
「おかしな依頼だな。最近アリストクラートコインの価値でも変わったのか?」
貴族コインとはディメント王国建国前に人間と敵対した吸血鬼たちが自らの文化圏で流通させていた貨幣である。
正式名称は大パトリス金貨というものだが、コインの背面に書かれている吸血鬼、パトリス侯爵の貴族趣味にちなんで「貴族のコイン」と呼ばれていた。好事家の間では古銭的な価値があり、高値で取引されている。冒険地でみつけた本物のアリストクラークコインは冒険者の良い副収入になっていた。
「まあ、アリストクラートコイン自体はそれほど珍しいものじゃないさ。それなりの冒険地で見かけることはままある。昔エドと旧水路でコレの偽造コインをたくさん見つけただろ?」
だまってエドウィンは頷いた。学生の頃ロージーと冒険に出かけた旧水路の一角でクリーピングコインの大群から偽造アリストクラートコインを手に入れたことがあった。
「じゃあエド。君はこれ、どう思う?」
そういうとロージーは懐から一枚のアリストクラートコインをとり出して、テーブルの上にほっぽった。手に取って調べてみると、描かれた侯爵の持っている錫杖の模様が本物と逆になっている。数ある偽造アリストクラートコインに違いない。
「なんだよ。ただの偽造アリストクラートコインじゃないか。こんなものに引っかかるのは駆け出しの冒険者だけだぜ。」
そういってエドウィンはコインを投げ返した。アリストクラートコインは価値がある反面大量の偽造コインが市場に出回っていた。そんな贋作に騙されないように、駆け出しの冒険者たちは必死に古銭の鑑定見本を見て図柄を覚えるのだ。
ロージーはさも当たり前のような顔のエドウィンを見て、実に意地悪そうな笑みを浮かべて言った。
「はははは。じゃあスラムの鑑定屋の親父に騙されて駆け出し狩りに遭うのは君だな、エド。これは本物のアリストクラートコインだ」
「なんだって?」
まさか自分の鑑定眼が衰えたか、あれは間違いなく本物ではなかったはずだ。
「エド、君やぼくらのような本物のアリストクラートコインに精通した冒険者は騙される。これはね、ある時期本当に流通していたアリストクラートコインなんだ。」
「ほんとうか?」
「本当だとも。これを調べるために一週間もクオパティ神殿のアーカイブに入り浸って古今東西のアリストクラートコインを調べまくったんだからね。」
ロージーの話を要約するとこういうことだった。ディメントⅡの時代、ハーサント連邦のマズロ州で州貨の大量発行が起こった。
この時代のハーサント連邦の各州は、多かれ少なかれ、交換準備正貨である金の備蓄を怠ったまま大量に州札を発行していた。そのままでは何が起こるか。当たり前のように、州貨の価値が暴落して大インフレが起こったのだ。
だがその当時のマズロ州造幣局長であったアモニ・ロッジは一大改革を断行した。なんと州内すべての州貨を当時市民の間で信用の高かったアリストクラートコインと交換するというものだった。
当時の造幣局役員が次々と謎の死を遂げる中、この一大パフォーマンスは粛々と進められ、結果から言うと途方もない州貨の棄却に成功したのだ。
アモニは州の経済を立て直し、莫大な両替準備正貨を背景にアリストクラートコインを新たに発行した。その新アリストクラートコインとも呼ばれるべき貨幣はハーサント連邦各州だけでなく大陸全土で大きな信用を得て流通したという。
「それが、このコインさ。これは正真正銘、ハーサント連邦政府属州発行のアリストクラートコインってことなんだ。」
信じられない話だった。ロージーの話からすれば、これは『間違った図柄の本物の金貨』なのだ。
「でも…古銭には違いないだろ?」
「いいや、ハーサント連邦のマズロ州ではこれは伝統的に正式登録された金貨として流通している。最もそんなに流通量が多くないらしいけどね。マズロの州制銀行に行けば金と交換してくれるよ。まあ、ハーサント連邦と貨幣条約を締結している我がディメント王国の銀行でも金と交換してもらえるが」
さしずめ『マズロ・アリストクラートコイン』ってとこかなとロージーは言った。
「しかし…なんでそれが今回のクエストとかかわりがあるんだ?」
そこまで言って、エドウィンは乱闘を起こした日、酒場で一組の冒険者がテーブルの上にはかりを乗せて大量の偽アリストクラークコインを鑑定していたのを思い出す。
「まてよ。最近ディメント国内で偽アリストクラートコイン…いやその『マズロ・アリストクラートコイン』が大量に出回っているのか?」
「なんだ、知ってたのか?鼻の利くやつらはだんだん気が付いてきてるがね。最近…というかここ5、6年ほど国内でこの『マズロ・コイン』が結構みつかるんだ。でもそのほとんどが偽アリストクラートコインとしてくだらない値段で取引されている。」
―どういうことだ…『どうみても偽物にしか見えない本物のコインが偽物として取引されている』…?
「あとね、どうもそれをまとめて買い取ってるやつもいるみたいなんだ。もちろん、あとで金と交換するためだろうがね。」
「おいおい、ロージー。まてよまさかそれって」
「ああ、すまない。ややこしい話になってしまったね。おそらくこれは大規模な金洗浄なんだ。もしかしたら国家規模かもしれないね」
だんだん剣呑な話になってきた。ごくりと喉を鳴らして、エドウィンはつばを飲み込んだ。
「つまり、ハーサント連邦の政府関係者が『正式な』マズロコインを偽アリストクラートコインとしてディメント王国国内に大量に流しているっていうのか?」
「『正式な』…マズロコインというか『正式な』マズロコインにしか見えない『偽造』マズロコインだろうけどね。つくり自体は本物さ。たぶん本物の金版からつくってるだろうし」
「あ、頭が痛くなってきた。偽物そっくりな本物の偽金貨だってのか?」
「驚いたな。さすが栄えあるディメント王国騎士団の一員だ。ようやく頭に血が回ってきたな」
そう言いながら、持ってたチーズをぱくつくロージーを見ながらエドウィンは背筋を冷たいものが滴るのを感じた。
もしこいつの言ってることが本当だとしたら、偽アリストクラートコインとしてディメント国内に大量に流入したマズロコインはくだらない偽造コインとして多くの人の手を渡り歩き、最終的にこの大仕掛けの黒幕の手に安手で買い取られる。そののちディメント王国の金融機関でマズロコインとしての価値にふさわしい莫大な価値の金と交換される…つまりディメント王国の財布から木の葉を使ったトリックで本物の金がどんどん引き出されているということだ。
「ディメント王国にも遅まきながらそのことに気が付いたやつがいるらしい。だからこうやって愚鈍な冒険者を雇って国内の偽アリストクラートコイン、つまりマズロコインを回収しようとしているんだよ。」
「まてまて、いまのはお前の妄想じゃないのか?それはちゃんとした話なのか?」
失礼な奴だな君は。といいながらロージーは足をテーブルの上にほっぽりだして遺憾の意を表明した。
「ぼくが調べたんだ、間違いないさ。これはハーサント連邦関係者による、ディメント王国への経済攻撃だ。新しい戦争だよ。」
戦争、という言葉にディメント王国騎士団としてのエドウィンの心がざわついた。こんな戦争の仕方があるのか?槍を、斧を使わないで相手の国を攻める、たしかにそれは戦争と呼べなくもなかった。
「エド、今やこの世の主役は金だ。国も民も君もぼくも金のルールからは逃れられない。相手の財布から自由に金を引き出せる魔法を考え付いたやつがいたら、そいつが本物の魔術師さ」
「大変なことじゃないか。衛兵の詰所に報告しなければ…」
血相を変えて部屋を出て行こうとしたエドウィンに、ロージーはははは、と笑い冷ややかに言った。
「言ってどうするんだい?とっくに魔法局の上の連中はこのことをご存知さ。でも止められないからどうにもできない。こんなことを公表すればディメント王国の発行した貨幣の価値すら信用を失って急落しかねないからね。」
それに、出仕禁止中の衛兵の言うことなんかまともに聞いてくれるとは思えないねといって、ロージーはふるふると頭を振った。
「お前よくもそんなことを…じゃあどうするっていうんだ。」
憤慨しながら、聞き返すエドウィンに、ロージーは待ってましたと答える。
「それでさ…エド!この事件の犯人を僕らでとっつ構えよう。2人で捕まえて、魔法局に突き出してみろ、こんなくだらないクエストで得られる報酬なんか目じゃないぞ!それになにより、こんな面白そうな冒険ほかにあるか?」
薔薇のように真っ赤な頬をさらに紅潮させたハーフエルフの魔術師が身を乗り出しながらそういった。目が…きらきらしてる。
「だ…だが、どうやってそんな犯人なんかを探すんだ。ディメント王国の魔法局でも手をこまねいているんじゃないのか。」
確かに魔法局が一番この犯人の首根っこを押さえたいだろう、それができていればわざわざ冒険者にアリストクラートコインの回収にかこつけたマズロコインの回収など依頼しないはずだ。
「覚えてないか?78年の冒険だよ!ぼくたちはクリーピングコインからこのマズロコインを手に入れた、そのころから国内には偽アリストクラートコインとしてこいつが蔓延してたんだ。」
「黒幕が資金洗浄する手段として、冒険地の戦利品として冒険者にコインを回収させてるっていうのか?」
「まさにその通りだ!さすが我が冒険団の副隊長!そして、マズロコインのドロップが集中しているのが、旧水路周辺だ…ここにつながるダンジョンのどこかに奴らの巣がある!」
あ、とエドウィンは小さく声を漏らした。
「お前言ってたな…旧水路につながるアリア川の支流にダンジョンが見つかったって」
ロージーはにんまり笑うと、万歳をするように腕を振り回す。
「やるぞ!二人でこの贋金事件を解決するんだ!アルグニッツ冒険隊の久々の冒険だぞ!」
エドウィンは、カラカラになった喉の渇きをいやすように、抱えていたワインボトルを一気に煽った。
次回【魔術師】⑤はこちら
ドアを開けてその顔を見た時、昔飼っていた飼い猫が捕まえたネズミを咥えて見せに来た光景を思い出した。
『どうだ』と言わんばかりに獲物を誇らしげに咥え、飼い主の眼前にペッと吐き捨てるあの時の表情だ。
「やあエド!失職した友人のためにぼくが仕事を持ってきてやったぞ!」
どこからエドウィンが出仕を禁止されて家にいることを聞きつけたのか。
エドウィンがドアを閉めるより早く、ロージーは喜色満面といった様子でズカズカとアパートに上がり込む。
なんだ久しぶりに来たがあんまり変わっていないなとか言いながら、勝手に食糧庫に顔を突っ込むと次に出てきたときには両手に葡萄酒のボトルとワイングラス、そして小脇にはエドウィンが大切に残しておいたクオパティ法制院産の乾酪やハムを抱えていた。
「おいおい、勘弁しろよ。何しに来たんだ?飯をたかるつもりか・・・」
エドウィンの弱々しい抗議を無視して、ハーフエルフの魔術師はどっかりとソファーに腰を下ろしボトルの中身をなみなみとグラスにぶちまけながら言った。
「人の話を聞いてないのか?ぼくは仕事を持ってきたといっただろう。この前のお返しだ!義理堅い友人を持ったことを光栄に思いたまえ」
そう言いつつロージーは真っ赤な葡萄酒の入ったグラスを高く掲げた。
「ええとじゃあ何に乾杯しようかな。わが友エドウィン・コナリスの退屈な衛兵稼業の終焉と、これから始まる冒険に!」
勝手に一人で乾杯してグラスを干し、二杯目を注ぎにかかるロージーの手からワインボトルをひったくると、エドウィンは訂正した。
「衛兵はクビになったわけじゃない。みつきの間の出仕禁止だけだ。」
「しぶといな。だが当面収入がないことにはかわりないだろ。結局、おなじことじゃないか!内職が必要だろう、はははは」
癇に障る高笑いを聞いて胃の腑に穴が開く気分がする。だが、ロージーの言うことも認めざるを得ない。
エドウィンが先日任務の最中に酒場で起こした乱闘は、相棒で先任仕官のバナバスが駆けつけて現場を収集してくれたおかげでどうにか大事に至らなかった。さらに騎士団の追放処分もギリギリ免れた。乱闘相手が冒険者だったことと、バナバスが報告書で上官に取り成してくれたおかげだった。
だが巡回任務中に私闘を起こした咎は見過ごされず、三か月の出仕禁止とその間の俸禄停止が言い渡された。つらい沙汰だったが、やったことの内容からしてみれば、これでもアヴルールの采配と言えなくもなかった。
問題はロージーの言うとおりしばらくの間どうにかして口に糊をしなければならないことだ。
「自宅謹慎でもないんだろ?うちに引きこもってばっかりじゃあ腐っちまうぞ、エドウィン君!とりあえずこれを見ろ」
この前まで自分がそうだったくせに、いけしゃあしゃあとそういうと、ロージーは一枚の羊皮紙を広げた。
「なんだこいつは」
「ぼくがとってきた、冒険者ギルドからの仕事の依頼だ」
羊皮紙には、冒険者に対してギルドが発行するクエストの依頼内容が書かれていた。素早く目を通してみると、どうやら最近ディメント王国国内のダンジョンでよく発見されるアリストクラートコインの回収依頼だった。規定枚数を発見して報告書とともに冒険者ギルドに納めてくれというものだ。
ちなみにクエストの請負人には勝手に『アルグニッツ冒険隊』エドウィン・コナリスと署名がされている。複雑な気分だった。
「おかしな依頼だな。最近アリストクラートコインの価値でも変わったのか?」
貴族コインとはディメント王国建国前に人間と敵対した吸血鬼たちが自らの文化圏で流通させていた貨幣である。
正式名称は大パトリス金貨というものだが、コインの背面に書かれている吸血鬼、パトリス侯爵の貴族趣味にちなんで「貴族のコイン」と呼ばれていた。好事家の間では古銭的な価値があり、高値で取引されている。冒険地でみつけた本物のアリストクラークコインは冒険者の良い副収入になっていた。
「まあ、アリストクラートコイン自体はそれほど珍しいものじゃないさ。それなりの冒険地で見かけることはままある。昔エドと旧水路でコレの偽造コインをたくさん見つけただろ?」
だまってエドウィンは頷いた。学生の頃ロージーと冒険に出かけた旧水路の一角でクリーピングコインの大群から偽造アリストクラートコインを手に入れたことがあった。
「じゃあエド。君はこれ、どう思う?」
そういうとロージーは懐から一枚のアリストクラートコインをとり出して、テーブルの上にほっぽった。手に取って調べてみると、描かれた侯爵の持っている錫杖の模様が本物と逆になっている。数ある偽造アリストクラートコインに違いない。
「なんだよ。ただの偽造アリストクラートコインじゃないか。こんなものに引っかかるのは駆け出しの冒険者だけだぜ。」
そういってエドウィンはコインを投げ返した。アリストクラートコインは価値がある反面大量の偽造コインが市場に出回っていた。そんな贋作に騙されないように、駆け出しの冒険者たちは必死に古銭の鑑定見本を見て図柄を覚えるのだ。
ロージーはさも当たり前のような顔のエドウィンを見て、実に意地悪そうな笑みを浮かべて言った。
「はははは。じゃあスラムの鑑定屋の親父に騙されて駆け出し狩りに遭うのは君だな、エド。これは本物のアリストクラートコインだ」
「なんだって?」
まさか自分の鑑定眼が衰えたか、あれは間違いなく本物ではなかったはずだ。
「エド、君やぼくらのような本物のアリストクラートコインに精通した冒険者は騙される。これはね、ある時期本当に流通していたアリストクラートコインなんだ。」
「ほんとうか?」
「本当だとも。これを調べるために一週間もクオパティ神殿のアーカイブに入り浸って古今東西のアリストクラートコインを調べまくったんだからね。」
ロージーの話を要約するとこういうことだった。ディメントⅡの時代、ハーサント連邦のマズロ州で州貨の大量発行が起こった。
この時代のハーサント連邦の各州は、多かれ少なかれ、交換準備正貨である金の備蓄を怠ったまま大量に州札を発行していた。そのままでは何が起こるか。当たり前のように、州貨の価値が暴落して大インフレが起こったのだ。
だがその当時のマズロ州造幣局長であったアモニ・ロッジは一大改革を断行した。なんと州内すべての州貨を当時市民の間で信用の高かったアリストクラートコインと交換するというものだった。
当時の造幣局役員が次々と謎の死を遂げる中、この一大パフォーマンスは粛々と進められ、結果から言うと途方もない州貨の棄却に成功したのだ。
アモニは州の経済を立て直し、莫大な両替準備正貨を背景にアリストクラートコインを新たに発行した。その新アリストクラートコインとも呼ばれるべき貨幣はハーサント連邦各州だけでなく大陸全土で大きな信用を得て流通したという。
「それが、このコインさ。これは正真正銘、ハーサント連邦政府属州発行のアリストクラートコインってことなんだ。」
信じられない話だった。ロージーの話からすれば、これは『間違った図柄の本物の金貨』なのだ。
「でも…古銭には違いないだろ?」
「いいや、ハーサント連邦のマズロ州ではこれは伝統的に正式登録された金貨として流通している。最もそんなに流通量が多くないらしいけどね。マズロの州制銀行に行けば金と交換してくれるよ。まあ、ハーサント連邦と貨幣条約を締結している我がディメント王国の銀行でも金と交換してもらえるが」
さしずめ『マズロ・アリストクラートコイン』ってとこかなとロージーは言った。
「しかし…なんでそれが今回のクエストとかかわりがあるんだ?」
そこまで言って、エドウィンは乱闘を起こした日、酒場で一組の冒険者がテーブルの上にはかりを乗せて大量の偽アリストクラークコインを鑑定していたのを思い出す。
「まてよ。最近ディメント国内で偽アリストクラートコイン…いやその『マズロ・アリストクラートコイン』が大量に出回っているのか?」
「なんだ、知ってたのか?鼻の利くやつらはだんだん気が付いてきてるがね。最近…というかここ5、6年ほど国内でこの『マズロ・コイン』が結構みつかるんだ。でもそのほとんどが偽アリストクラートコインとしてくだらない値段で取引されている。」
―どういうことだ…『どうみても偽物にしか見えない本物のコインが偽物として取引されている』…?
「あとね、どうもそれをまとめて買い取ってるやつもいるみたいなんだ。もちろん、あとで金と交換するためだろうがね。」
「おいおい、ロージー。まてよまさかそれって」
「ああ、すまない。ややこしい話になってしまったね。おそらくこれは大規模な金洗浄なんだ。もしかしたら国家規模かもしれないね」
だんだん剣呑な話になってきた。ごくりと喉を鳴らして、エドウィンはつばを飲み込んだ。
「つまり、ハーサント連邦の政府関係者が『正式な』マズロコインを偽アリストクラートコインとしてディメント王国国内に大量に流しているっていうのか?」
「『正式な』…マズロコインというか『正式な』マズロコインにしか見えない『偽造』マズロコインだろうけどね。つくり自体は本物さ。たぶん本物の金版からつくってるだろうし」
「あ、頭が痛くなってきた。偽物そっくりな本物の偽金貨だってのか?」
「驚いたな。さすが栄えあるディメント王国騎士団の一員だ。ようやく頭に血が回ってきたな」
そう言いながら、持ってたチーズをぱくつくロージーを見ながらエドウィンは背筋を冷たいものが滴るのを感じた。
もしこいつの言ってることが本当だとしたら、偽アリストクラートコインとしてディメント国内に大量に流入したマズロコインはくだらない偽造コインとして多くの人の手を渡り歩き、最終的にこの大仕掛けの黒幕の手に安手で買い取られる。そののちディメント王国の金融機関でマズロコインとしての価値にふさわしい莫大な価値の金と交換される…つまりディメント王国の財布から木の葉を使ったトリックで本物の金がどんどん引き出されているということだ。
「ディメント王国にも遅まきながらそのことに気が付いたやつがいるらしい。だからこうやって愚鈍な冒険者を雇って国内の偽アリストクラートコイン、つまりマズロコインを回収しようとしているんだよ。」
「まてまて、いまのはお前の妄想じゃないのか?それはちゃんとした話なのか?」
失礼な奴だな君は。といいながらロージーは足をテーブルの上にほっぽりだして遺憾の意を表明した。
「ぼくが調べたんだ、間違いないさ。これはハーサント連邦関係者による、ディメント王国への経済攻撃だ。新しい戦争だよ。」
戦争、という言葉にディメント王国騎士団としてのエドウィンの心がざわついた。こんな戦争の仕方があるのか?槍を、斧を使わないで相手の国を攻める、たしかにそれは戦争と呼べなくもなかった。
「エド、今やこの世の主役は金だ。国も民も君もぼくも金のルールからは逃れられない。相手の財布から自由に金を引き出せる魔法を考え付いたやつがいたら、そいつが本物の魔術師さ」
「大変なことじゃないか。衛兵の詰所に報告しなければ…」
血相を変えて部屋を出て行こうとしたエドウィンに、ロージーはははは、と笑い冷ややかに言った。
「言ってどうするんだい?とっくに魔法局の上の連中はこのことをご存知さ。でも止められないからどうにもできない。こんなことを公表すればディメント王国の発行した貨幣の価値すら信用を失って急落しかねないからね。」
それに、出仕禁止中の衛兵の言うことなんかまともに聞いてくれるとは思えないねといって、ロージーはふるふると頭を振った。
「お前よくもそんなことを…じゃあどうするっていうんだ。」
憤慨しながら、聞き返すエドウィンに、ロージーは待ってましたと答える。
「それでさ…エド!この事件の犯人を僕らでとっつ構えよう。2人で捕まえて、魔法局に突き出してみろ、こんなくだらないクエストで得られる報酬なんか目じゃないぞ!それになにより、こんな面白そうな冒険ほかにあるか?」
薔薇のように真っ赤な頬をさらに紅潮させたハーフエルフの魔術師が身を乗り出しながらそういった。目が…きらきらしてる。
「だ…だが、どうやってそんな犯人なんかを探すんだ。ディメント王国の魔法局でも手をこまねいているんじゃないのか。」
確かに魔法局が一番この犯人の首根っこを押さえたいだろう、それができていればわざわざ冒険者にアリストクラートコインの回収にかこつけたマズロコインの回収など依頼しないはずだ。
「覚えてないか?78年の冒険だよ!ぼくたちはクリーピングコインからこのマズロコインを手に入れた、そのころから国内には偽アリストクラートコインとしてこいつが蔓延してたんだ。」
「黒幕が資金洗浄する手段として、冒険地の戦利品として冒険者にコインを回収させてるっていうのか?」
「まさにその通りだ!さすが我が冒険団の副隊長!そして、マズロコインのドロップが集中しているのが、旧水路周辺だ…ここにつながるダンジョンのどこかに奴らの巣がある!」
あ、とエドウィンは小さく声を漏らした。
「お前言ってたな…旧水路につながるアリア川の支流にダンジョンが見つかったって」
ロージーはにんまり笑うと、万歳をするように腕を振り回す。
「やるぞ!二人でこの贋金事件を解決するんだ!アルグニッツ冒険隊の久々の冒険だぞ!」
エドウィンは、カラカラになった喉の渇きをいやすように、抱えていたワインボトルを一気に煽った。
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うおぉぉ
すごい…
よく考えたね!って変な表現だけどww
すごいぞ!wこのマネーロンダリングの方式w
考えたヤツは本物の悪党だwww
だんだん、どこからどこまで公式設定に乗っかってるのか分からなくなってきましたw
元々公式の方(あらはいさんがツイートしたやつ?)は
気合入れて読んでないもので…
よく考えたね!って変な表現だけどww
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考えたヤツは本物の悪党だwww
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弱い。ひたすら弱い。とにかく弱い
あるときは宝箱の中から爆弾を出すシーフ、またあるときは攻撃の届かないファイター。
ただ皆様の平和と健康と幸福を祈るだけの存在
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