このブログは、wizon wizardryonline (ウィザードリィオンライン)のプレイ風景をつづったものです
JP現アルバロア鯖で活動しているプレイヤーの個人日記です。
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スラム街。
死体安置所通りは、まるで街全体で片付けるとか整理するとかいう概念を拒否しているかのようにあらゆるものが散乱し、路上に放り出されている。資材、朽ちた看板、木箱、酔っ払い、売女、そして行き倒れたのであろうわたり乞食の死体。
そういった、種々雑多なごみとも呼べないような、邪魔ものたちの傍らを二人の男がかけぬけてゆく。
追っているのはこの場所に似合わない眉目秀麗なエルフの青年、そして逃走しているのは目深にフードをかぶって髭を生やした薄汚れたマントを引きずる、そこいらの酒瓶を抱いて眠る酔っ払いと変わらない恰好をした長身の男だ。
2人は迷路のような路地を抜け、ぼろなのか、洗濯ものなのか、洗濯物を乾かしたまま風化したぼろなのかわからない布におおわれた誰かの軒先を押し分け、ついには違法建築がそのまま通路となったような袋小路でその追いかけっこをやめた。
「追いつめたぞ。」
肩で大きく息をしながら、青年は前腕の長さほどの短杖を目の前のフードつきのマントを着た男に突き付ける。その短杖の先端からは淡い赤色の魔法光が漏れている。朽ち果てたスラムにあるのも似つかわしくない、超一級品の魔法の品だ。
「…どうかな。」
目深にフードをかぶった髭の男は、おどけたように肩をすくめると同時に懐から素早く何かを飛ばした。エルフの青年は目ざとくその小さな奇襲をとらえると、短杖の先で、自分に飛来する暗器を撃ち落とした。はたして、ちぃんという澄んだ音を立ててはじかれたそれはアリストクラートコインだった。
「疾く、炎爆よ…」
髭の男はエルフの青年の一瞬の隙をついて腰の魔力のこもった短剣をぬき、殺傷力の高い炎爆の呪文を詠唱しようとしたが、彼の呪文の詠唱が終わるより早くエルフの青年の魔法が唱えられた。
「射!」
短杖からほとばしり出たのは炎矢である。どんなに熟達した魔術師でも最低一呼吸はかかると言われている炎矢の詠唱を、このエルフの青年は一言、そして一挙動で終えたのだ。
炎矢は狙いを過たず、今まさに炎爆の魔法が放たれようとしている髭の男の手元に中り、短剣を跳ね上げた。炎爆の魔法はスラムの夜空に打ち上げられ、季節外れの花火のごとく大きな音を立てて空中で爆発する。
「素人め…近距離遭遇戦で炎爆が唱えられると思ったのか?」
魔法による火傷に顔をゆがめ、手をかばいながらうずくまる男にエルフの青年は死刑宣告のように告げた。
「さあ、魔術師に殺される気分はどうだ?魔術師。」
「ロージー!ローージーー!!」
アパートのドアをけたたましくたたきながら、エドウィン・コナリスは大声を上げた。
「ロージー!いるのはわかっているんだぞ、ここを開けろ!」
エドウィンが隣にいるアパートの大家のマルグリッドに向き直って首を振った。
「ダメです、あいつアパートの扉の鍵も勝手に変えてしまっているようだ。」
マルグリッドは天を仰いで肩をすくめると、昼食のプレートだけを廊下のキャスターの上において合鍵の束を持って回れ右をして自室に戻っていった。つまり【私の職務は果たしました】ということだろう。
「おのれ…今日はなんとしてもここを開けさせてやるからな。」
エドウィンはカバンから開錠ツールをとり出すと、鍵穴を覗き込みカチャカチャと開錠を試み始めた。
―なんだって、衛兵が盗賊の真似なんかをしなきゃならん…
しかし昔取った杵柄か、ほどなくすると清澄な音がして、鍵が開いた様子だった。
―おぉ、若いころの盗賊の修行もまんざら無駄ではなかったな。
自分の錠開けの腕前に驚きつつも、エドウィンはそっとドアを押し開けて部屋の中に入った。
「…ロージー…入るぞ…」
部屋の中はまるで片付けるとか整理するとかいう概念を拒否したかのように雑然とありとあらゆるものが渦高く積まれていた。いや床に降り積もったものが、結果的に高く積もったのだ。
「お前の部屋はダンジョンか…」
恐る恐る迷宮と化した部屋の中で友人の姿を探していたエドウィンだったが、なぜか嫌な予感がして、その足を止めた。
「!」
足元を注意深く観察してみるとひっくり返った羊皮紙の下に巧妙にワイヤーロープが張られていたのだ。その先を目で追ってみると、まさにエドウィンの頭上に水の入った金タライが洗濯物に隠されてつりさげられていた。
「正気か!?・・・これは罠か?私を部屋の中で罠にはめるつもりか!?ロージー今すぐ出てくるんだ!」
さすがにこの仕打ちに真っ赤になってエドウィンは叫んだ。するとなぜ置いてあるのかわからない斧を振りかざした巨大なオークの置物の陰から闊達な笑い声がした。
「ははははは、腕はなまっていやしないようだな、エド!それでこそ『アルグニッツ冒険隊』の副隊長だ。」
にゅっと姿を現したのは長身の青年である。一見してエルフのように見える。
真っ白のシャツに緑色の縁取りのあるビロードのベストを羽織り、長ズボンを履いている。燃えるような赤みがかった金髪は無造作にひもで縛って纏められているものの、肌は透き通るような陶器細工を思わせる白さで、眼鼻立ちは麗しく、街中を歩けば10人の女性が述べ15回は振り返るような容姿だ。そしてその美しさとは別に特徴的な点が二つ。真っ白な肌に朱をさしたような赤い頬の色と、エルフの特徴たる長い耳がない点だった。
「ロージー…勘弁しろよ。俺もお前ももうアルグニッツ村のエドとロージーじゃない。」
エドウィンはやれやれという風にかぶりをふるとそばにあった椅子の上に盛大に盛られたガラクタを床に落として腰かけた。
「それに今何時だと思ってる。クオパティの安息日でもないんだぞ。『こんなに日が高けりゃエルフでも働く』とはお前のためにある言葉だな。」
「悪かったな、ハーフエルフで。言っとくがぼくは母上が働いているところなんか見たことがないぞ。」
ロージーが赤い頬にさらに朱を混ぜたように上気した顔で鼻白んだ。
「ロージー、そうじゃない…いや、そうだが…実は今日はそのお前の母君たっての頼みできたんだ。まあ座れ。」
エドウィンは腰のポシェットから携帯用の水煙草のカセットを出すと、墨を火であぶりながらそういった。
「なんだって?あのものぐさなエルフのお姫様が君を使いに出したってのか?」
ロージーの母親はエルフの総本山「マザーツリー」に暮らす高位のエルフの貴族である。純粋なエルフの女性であるロージーの母親はもう何百年生きているのかわからないが、例え我が子の事であってもめったなことで外界の出来事に干渉したりはしない性格だった。
「ん、まあな。一週間ほど前に俺宛に君の母君から手紙が届いてな。君のことをずいぶん心配しておいでだったぞ。いまはどういった暮らしをしているのかとか、仕事は何をしているのかとか、結婚はしているのかとか…」
「なんだそれ、エルフの冗談なのか?」
「おい、真面目に聞けよ。かわいいわが子が日も高いうちから引きこもって部屋に罠かけて友人が来るのを待ってるなんて聞いたら、母君も心外だろう。」
「ぼくこそ心外だ、何百年もなにもせずに音曲を書いたり詩を読んだりしてだらだら暮らすしか能のない彼女に、僕の生活にとやかく口を出されるいわれはないね。なんだい、あの森ニート。」
エドウィンはぶくぶくと水煙草を吸い、盛大に煙を吐き出しながら嘆息した。
「誤解だ、ロージー・・・母君はお前のことが心配なんだよ。お前は大事な息子で…それに人間とのハーフだ。暮らし向きや生活をご心配されているのだ。」
「エド、君はどうしてそう昔からぼくの母に気を使うのだ。あんなの森の中に置きっぱなしにしたビロード人形みたいな生き物じゃないか。君が彼女の小間使いをやる必要などないぞ。」
―心配しているのは俺も一緒なんだよ。
という言葉を紫煙とともに飲み込んだエドウィンは、ロージーの母の事を思い出していた。彼自身もここ10年ほどロージーの母にはあっていないが、とにかく気絶するぐらい美しい人だったことは覚えている。当時少年だったエドウィンですらこんなに美しい人がこの世にいるかと思ったほどだった。確かに浮世離れした人なのだろうが、やはりわが子に対する愛情は格別なのだろう。エドウィンのもとに届いた手紙には切々と我が子の世話をみてくれるように嘆願が書き連ねられていた。
―またそれが名文なんだ・・・
そしてそれはただの書簡なのに額に入れて飾りたいほどの名文と達筆だった。アパートに引きこもったわが子を心配する森に引きこもった母親の手紙であることを差し引けば、十分にディメント文学勲章物の文章だった。
「いずれにせよ、君だってそろそろ25だ。生業の道を探さなきゃならんだろう。どうだ?俺みたいにディメント王立騎士団に仕官しないか?衛兵生活も悪くないぞ。今なら俺も口利きしてやれる。」
ハーフエルフの青年はひっくり返ると、上等な生地のクッションを器用に足でぽんぽんと空中に蹴り上げながら反対の意を表明した。
「エド!君はほんっとに衛兵になってからつまらない男になったな!言っておくが就職と結婚は人生のロストだぞ!それに何だい、その口ひげは!君はひげが薄いんだから無理して衛兵みたいに髭を生やさなくてもいいんだよ。」
「規定なんだよ…まだ入団1年目だから生えそろわないけれど、そのうち先輩たちのように立派な衛兵髭を生やすさ。」
「どうだか…ぞっとしないね。顔の半分を髭で覆って街をゾロ歩くのが仕事だって?まだ下水でバブリースライムまみれになっている冒険者の方がましだよ。」
エドウィンは説得が難しいことを改めて感じながら、なにげなく部屋の中を見渡した。そこかしこにガラクタのような剣やら盾やら宝箱がめちゃくちゃに散らばっている。中には見覚えのあるものもあった。
「ん…これは確か、旧水路に潜ったときの戦利品だったな。」
手に取ったのは、ロージーと二人でディメント王国近郊の旧水路と呼ばれる冒険地に繰り出した時に拾った宝箱だ。コインの化け物を必死で撃退して拾ったのがコインの詰まった宝箱だったなんて、と言って二人で大笑いしたのを覚えている。
「そうだ!クリーピングコインからぶんどった偽造アリストクラートコインの山!覚えているかい、エド。あの78年の夏だった!どうだ、次の安息日また一緒に出掛けよう。いまものすごく面白い冒険地の情報を調べているんだ。」
エドウィンはあわててかぶりをふった。
「だめだ、だめだ!俺はもう冒険者ごっこはやめたんだ。ロージー、君だってそうだろう…もう俺らは『アルグニッツ冒険隊』じゃない。もう寄宿舎学校時代じゃないんだ。」
「・・・・」
ロージーはすねたようにベッドの上をごろごろと転がって、そっぽを向いた。超高倍率の試験を突破して一緒に入った寄宿舎学校時代、魔法科で10年に一人の天才ともてはやされた男が、今就職を嫌がって駄々をこねているなんて、同窓として見ているこっちが情けない気持ちになってくる。ロージーは本当に容姿も才能も無駄にするためだけに授かったとしか思えない男だった。
そういえばエドウィンとロージーが一緒に暮らしたアルグニッツ村から数えて、二人はもう20年近い付き合いである。その間ずっと一緒に悪いことも遊びもやっていたが、こいつが何かをやりたいなどと口にしたのをついぞ聞いたことがない。小さいころからずっと一つ上のエドウィンにくっついてうろうろしていたのがロージーだった。
「それにぼくに衛兵は無理だ。ディメント王国は人間の治める人間の国だ。ハーフエルフのぼくなんかにゃ務まらないさ。」
「フム・・・」
紫煙をくゆらせながら、エドウィンは考え込んだ。確かにディメント騎士団内部は人間以外の混血児に対する風当たりは強いかもしれない。エドウィンは実際見たことがないが、他種族に対して非寛容な種族純潔主義者たちの秘密結社もあるという。またたとえ種族差別がなくてもハーフエルフは生まれながらに魔法の才を授かっているものが多いのだ、その天賦の才に嫉妬する同僚がいてもおかしくはない。
「そういえば、お前初めて会った時も、そんなこと言ってたな。」
「…そうだったっけな。」
「アルグニッツに使用人と越してきたときさ、覚えてないか?『ぼくは人間じゃないから、お前たちと一緒に遊べないんだ』なんて言ってたんだ。それで俺が…」
ロージーが大声を出してエドウィンの話をさえぎった。
「ああ、もうそんな超昔話をするなんて!!だから衛兵なんてやめろって言ったんだよ。あまりにも変化のない毎日の生活で昔話しかすることがないんだろう!!ヴァンパイアだってそんな懐古趣味じゃないぞ!!」
「…ま、とにかく。俺の顔をたてる意味でも明日、これを持って王宮に来てくれ。」
苦々しい顔でエドウィンは一枚の蜜蝋で閉じられた巻物を投げてよこした。
「なんだい、これ。」
「就職の面接用の身上書だよ。実はもう王宮の魔法局の局員に推薦してきたんだ。」
ロージーはクッションをエドウィンの頭上の金ダライに投げつけ、勢いよく中の水がひっくりかえった。
(次回へ続く)
スラム街。
死体安置所通りは、まるで街全体で片付けるとか整理するとかいう概念を拒否しているかのようにあらゆるものが散乱し、路上に放り出されている。資材、朽ちた看板、木箱、酔っ払い、売女、そして行き倒れたのであろうわたり乞食の死体。
そういった、種々雑多なごみとも呼べないような、邪魔ものたちの傍らを二人の男がかけぬけてゆく。
追っているのはこの場所に似合わない眉目秀麗なエルフの青年、そして逃走しているのは目深にフードをかぶって髭を生やした薄汚れたマントを引きずる、そこいらの酒瓶を抱いて眠る酔っ払いと変わらない恰好をした長身の男だ。
2人は迷路のような路地を抜け、ぼろなのか、洗濯ものなのか、洗濯物を乾かしたまま風化したぼろなのかわからない布におおわれた誰かの軒先を押し分け、ついには違法建築がそのまま通路となったような袋小路でその追いかけっこをやめた。
「追いつめたぞ。」
肩で大きく息をしながら、青年は前腕の長さほどの短杖を目の前のフードつきのマントを着た男に突き付ける。その短杖の先端からは淡い赤色の魔法光が漏れている。朽ち果てたスラムにあるのも似つかわしくない、超一級品の魔法の品だ。
「…どうかな。」
目深にフードをかぶった髭の男は、おどけたように肩をすくめると同時に懐から素早く何かを飛ばした。エルフの青年は目ざとくその小さな奇襲をとらえると、短杖の先で、自分に飛来する暗器を撃ち落とした。はたして、ちぃんという澄んだ音を立ててはじかれたそれはアリストクラートコインだった。
「疾く、炎爆よ…」
髭の男はエルフの青年の一瞬の隙をついて腰の魔力のこもった短剣をぬき、殺傷力の高い炎爆の呪文を詠唱しようとしたが、彼の呪文の詠唱が終わるより早くエルフの青年の魔法が唱えられた。
「射!」
短杖からほとばしり出たのは炎矢である。どんなに熟達した魔術師でも最低一呼吸はかかると言われている炎矢の詠唱を、このエルフの青年は一言、そして一挙動で終えたのだ。
炎矢は狙いを過たず、今まさに炎爆の魔法が放たれようとしている髭の男の手元に中り、短剣を跳ね上げた。炎爆の魔法はスラムの夜空に打ち上げられ、季節外れの花火のごとく大きな音を立てて空中で爆発する。
「素人め…近距離遭遇戦で炎爆が唱えられると思ったのか?」
魔法による火傷に顔をゆがめ、手をかばいながらうずくまる男にエルフの青年は死刑宣告のように告げた。
「さあ、魔術師に殺される気分はどうだ?魔術師。」
「ロージー!ローージーー!!」
アパートのドアをけたたましくたたきながら、エドウィン・コナリスは大声を上げた。
「ロージー!いるのはわかっているんだぞ、ここを開けろ!」
エドウィンが隣にいるアパートの大家のマルグリッドに向き直って首を振った。
「ダメです、あいつアパートの扉の鍵も勝手に変えてしまっているようだ。」
マルグリッドは天を仰いで肩をすくめると、昼食のプレートだけを廊下のキャスターの上において合鍵の束を持って回れ右をして自室に戻っていった。つまり【私の職務は果たしました】ということだろう。
「おのれ…今日はなんとしてもここを開けさせてやるからな。」
エドウィンはカバンから開錠ツールをとり出すと、鍵穴を覗き込みカチャカチャと開錠を試み始めた。
―なんだって、衛兵が盗賊の真似なんかをしなきゃならん…
しかし昔取った杵柄か、ほどなくすると清澄な音がして、鍵が開いた様子だった。
―おぉ、若いころの盗賊の修行もまんざら無駄ではなかったな。
自分の錠開けの腕前に驚きつつも、エドウィンはそっとドアを押し開けて部屋の中に入った。
「…ロージー…入るぞ…」
部屋の中はまるで片付けるとか整理するとかいう概念を拒否したかのように雑然とありとあらゆるものが渦高く積まれていた。いや床に降り積もったものが、結果的に高く積もったのだ。
「お前の部屋はダンジョンか…」
恐る恐る迷宮と化した部屋の中で友人の姿を探していたエドウィンだったが、なぜか嫌な予感がして、その足を止めた。
「!」
足元を注意深く観察してみるとひっくり返った羊皮紙の下に巧妙にワイヤーロープが張られていたのだ。その先を目で追ってみると、まさにエドウィンの頭上に水の入った金タライが洗濯物に隠されてつりさげられていた。
「正気か!?・・・これは罠か?私を部屋の中で罠にはめるつもりか!?ロージー今すぐ出てくるんだ!」
さすがにこの仕打ちに真っ赤になってエドウィンは叫んだ。するとなぜ置いてあるのかわからない斧を振りかざした巨大なオークの置物の陰から闊達な笑い声がした。
「ははははは、腕はなまっていやしないようだな、エド!それでこそ『アルグニッツ冒険隊』の副隊長だ。」
にゅっと姿を現したのは長身の青年である。一見してエルフのように見える。
真っ白のシャツに緑色の縁取りのあるビロードのベストを羽織り、長ズボンを履いている。燃えるような赤みがかった金髪は無造作にひもで縛って纏められているものの、肌は透き通るような陶器細工を思わせる白さで、眼鼻立ちは麗しく、街中を歩けば10人の女性が述べ15回は振り返るような容姿だ。そしてその美しさとは別に特徴的な点が二つ。真っ白な肌に朱をさしたような赤い頬の色と、エルフの特徴たる長い耳がない点だった。
「ロージー…勘弁しろよ。俺もお前ももうアルグニッツ村のエドとロージーじゃない。」
エドウィンはやれやれという風にかぶりをふるとそばにあった椅子の上に盛大に盛られたガラクタを床に落として腰かけた。
「それに今何時だと思ってる。クオパティの安息日でもないんだぞ。『こんなに日が高けりゃエルフでも働く』とはお前のためにある言葉だな。」
「悪かったな、ハーフエルフで。言っとくがぼくは母上が働いているところなんか見たことがないぞ。」
ロージーが赤い頬にさらに朱を混ぜたように上気した顔で鼻白んだ。
「ロージー、そうじゃない…いや、そうだが…実は今日はそのお前の母君たっての頼みできたんだ。まあ座れ。」
エドウィンは腰のポシェットから携帯用の水煙草のカセットを出すと、墨を火であぶりながらそういった。
「なんだって?あのものぐさなエルフのお姫様が君を使いに出したってのか?」
ロージーの母親はエルフの総本山「マザーツリー」に暮らす高位のエルフの貴族である。純粋なエルフの女性であるロージーの母親はもう何百年生きているのかわからないが、例え我が子の事であってもめったなことで外界の出来事に干渉したりはしない性格だった。
「ん、まあな。一週間ほど前に俺宛に君の母君から手紙が届いてな。君のことをずいぶん心配しておいでだったぞ。いまはどういった暮らしをしているのかとか、仕事は何をしているのかとか、結婚はしているのかとか…」
「なんだそれ、エルフの冗談なのか?」
「おい、真面目に聞けよ。かわいいわが子が日も高いうちから引きこもって部屋に罠かけて友人が来るのを待ってるなんて聞いたら、母君も心外だろう。」
「ぼくこそ心外だ、何百年もなにもせずに音曲を書いたり詩を読んだりしてだらだら暮らすしか能のない彼女に、僕の生活にとやかく口を出されるいわれはないね。なんだい、あの森ニート。」
エドウィンはぶくぶくと水煙草を吸い、盛大に煙を吐き出しながら嘆息した。
「誤解だ、ロージー・・・母君はお前のことが心配なんだよ。お前は大事な息子で…それに人間とのハーフだ。暮らし向きや生活をご心配されているのだ。」
「エド、君はどうしてそう昔からぼくの母に気を使うのだ。あんなの森の中に置きっぱなしにしたビロード人形みたいな生き物じゃないか。君が彼女の小間使いをやる必要などないぞ。」
―心配しているのは俺も一緒なんだよ。
という言葉を紫煙とともに飲み込んだエドウィンは、ロージーの母の事を思い出していた。彼自身もここ10年ほどロージーの母にはあっていないが、とにかく気絶するぐらい美しい人だったことは覚えている。当時少年だったエドウィンですらこんなに美しい人がこの世にいるかと思ったほどだった。確かに浮世離れした人なのだろうが、やはりわが子に対する愛情は格別なのだろう。エドウィンのもとに届いた手紙には切々と我が子の世話をみてくれるように嘆願が書き連ねられていた。
―またそれが名文なんだ・・・
そしてそれはただの書簡なのに額に入れて飾りたいほどの名文と達筆だった。アパートに引きこもったわが子を心配する森に引きこもった母親の手紙であることを差し引けば、十分にディメント文学勲章物の文章だった。
「いずれにせよ、君だってそろそろ25だ。生業の道を探さなきゃならんだろう。どうだ?俺みたいにディメント王立騎士団に仕官しないか?衛兵生活も悪くないぞ。今なら俺も口利きしてやれる。」
ハーフエルフの青年はひっくり返ると、上等な生地のクッションを器用に足でぽんぽんと空中に蹴り上げながら反対の意を表明した。
「エド!君はほんっとに衛兵になってからつまらない男になったな!言っておくが就職と結婚は人生のロストだぞ!それに何だい、その口ひげは!君はひげが薄いんだから無理して衛兵みたいに髭を生やさなくてもいいんだよ。」
「規定なんだよ…まだ入団1年目だから生えそろわないけれど、そのうち先輩たちのように立派な衛兵髭を生やすさ。」
「どうだか…ぞっとしないね。顔の半分を髭で覆って街をゾロ歩くのが仕事だって?まだ下水でバブリースライムまみれになっている冒険者の方がましだよ。」
エドウィンは説得が難しいことを改めて感じながら、なにげなく部屋の中を見渡した。そこかしこにガラクタのような剣やら盾やら宝箱がめちゃくちゃに散らばっている。中には見覚えのあるものもあった。
「ん…これは確か、旧水路に潜ったときの戦利品だったな。」
手に取ったのは、ロージーと二人でディメント王国近郊の旧水路と呼ばれる冒険地に繰り出した時に拾った宝箱だ。コインの化け物を必死で撃退して拾ったのがコインの詰まった宝箱だったなんて、と言って二人で大笑いしたのを覚えている。
「そうだ!クリーピングコインからぶんどった偽造アリストクラートコインの山!覚えているかい、エド。あの78年の夏だった!どうだ、次の安息日また一緒に出掛けよう。いまものすごく面白い冒険地の情報を調べているんだ。」
エドウィンはあわててかぶりをふった。
「だめだ、だめだ!俺はもう冒険者ごっこはやめたんだ。ロージー、君だってそうだろう…もう俺らは『アルグニッツ冒険隊』じゃない。もう寄宿舎学校時代じゃないんだ。」
「・・・・」
ロージーはすねたようにベッドの上をごろごろと転がって、そっぽを向いた。超高倍率の試験を突破して一緒に入った寄宿舎学校時代、魔法科で10年に一人の天才ともてはやされた男が、今就職を嫌がって駄々をこねているなんて、同窓として見ているこっちが情けない気持ちになってくる。ロージーは本当に容姿も才能も無駄にするためだけに授かったとしか思えない男だった。
そういえばエドウィンとロージーが一緒に暮らしたアルグニッツ村から数えて、二人はもう20年近い付き合いである。その間ずっと一緒に悪いことも遊びもやっていたが、こいつが何かをやりたいなどと口にしたのをついぞ聞いたことがない。小さいころからずっと一つ上のエドウィンにくっついてうろうろしていたのがロージーだった。
「それにぼくに衛兵は無理だ。ディメント王国は人間の治める人間の国だ。ハーフエルフのぼくなんかにゃ務まらないさ。」
「フム・・・」
紫煙をくゆらせながら、エドウィンは考え込んだ。確かにディメント騎士団内部は人間以外の混血児に対する風当たりは強いかもしれない。エドウィンは実際見たことがないが、他種族に対して非寛容な種族純潔主義者たちの秘密結社もあるという。またたとえ種族差別がなくてもハーフエルフは生まれながらに魔法の才を授かっているものが多いのだ、その天賦の才に嫉妬する同僚がいてもおかしくはない。
「そういえば、お前初めて会った時も、そんなこと言ってたな。」
「…そうだったっけな。」
「アルグニッツに使用人と越してきたときさ、覚えてないか?『ぼくは人間じゃないから、お前たちと一緒に遊べないんだ』なんて言ってたんだ。それで俺が…」
ロージーが大声を出してエドウィンの話をさえぎった。
「ああ、もうそんな超昔話をするなんて!!だから衛兵なんてやめろって言ったんだよ。あまりにも変化のない毎日の生活で昔話しかすることがないんだろう!!ヴァンパイアだってそんな懐古趣味じゃないぞ!!」
「…ま、とにかく。俺の顔をたてる意味でも明日、これを持って王宮に来てくれ。」
苦々しい顔でエドウィンは一枚の蜜蝋で閉じられた巻物を投げてよこした。
「なんだい、これ。」
「就職の面接用の身上書だよ。実はもう王宮の魔法局の局員に推薦してきたんだ。」
ロージーはクッションをエドウィンの頭上の金ダライに投げつけ、勢いよく中の水がひっくりかえった。
(次回へ続く)
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そうだ
おお、これはグランドホテル方式???
同時なのか時間軸にずれがあるのか分からないけど…大作の予感!
相変わらず人物の描写が細かいですね。
そういうふうに書くと読んでるほうは自然と想像するね…
衛兵って名門出のエリートがなるものだったのか…w
今回もサイドストーリーが面白いw
それにしてもすごい制作意欲ですよね。
精力的というか。
さすが、本物の魔法使いは違うわ。
同時なのか時間軸にずれがあるのか分からないけど…大作の予感!
相変わらず人物の描写が細かいですね。
そういうふうに書くと読んでるほうは自然と想像するね…
衛兵って名門出のエリートがなるものだったのか…w
今回もサイドストーリーが面白いw
それにしてもすごい制作意欲ですよね。
精力的というか。
さすが、本物の魔法使いは違うわ。
無題
matildaさん>そりゃあ今まで溜めてきた精力が有り余ってマスカラ・・・ってドやかましいわ!
グランドホテル方式ってじつはあまり詳しくなかったのですが、十二人のいかれる男達みたいな手法のことなんですね。
衛兵って名門出のエリートって感じしない?wただ街中うろうろしてるだけのくせに超高給取りっぽいですよね。きっと装備とかはSR100のソケが10位ついてるんだろうな。はらたつわあw
グランドホテル方式ってじつはあまり詳しくなかったのですが、十二人のいかれる男達みたいな手法のことなんですね。
衛兵って名門出のエリートって感じしない?wただ街中うろうろしてるだけのくせに超高給取りっぽいですよね。きっと装備とかはSR100のソケが10位ついてるんだろうな。はらたつわあw
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なんか一生懸命押したり書いたりする仕事
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弱い。ひたすら弱い。とにかく弱い
あるときは宝箱の中から爆弾を出すシーフ、またあるときは攻撃の届かないファイター。
ただ皆様の平和と健康と幸福を祈るだけの存在
E-mail:
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