このブログは、wizon wizardryonline (ウィザードリィオンライン)のプレイ風景をつづったものです
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クジラ肉おいしいですね。
(前回までのあらすじ)
【盗賊】第一回はこちら
ダイエットコーラを毎日30ℓのみ続けていた「ダイエットコーラダイエット」を続けていた甲賀甲羅(コウカコウラ)はあるとき会社の健康診断でこのままの食生活を続けていると命が危ないといわれる。
「なぜ!?ダイエットコーラなら健康に無害ではないのか?」
困惑する甲羅の前に髪が半分だけ真っ白い闇医者が現れる。
「おまえさん、ちょいと命を粗末にしすぎなんじゃありませんかね。」
手持ちの360円(ラーメン代と同額)で手術を引き受けてくれることになったのだが・・・ハートフル医療大河ロマン
(前回までのあらすじ)
【盗賊】第一回はこちら
ダイエットコーラを毎日30ℓのみ続けていた「ダイエットコーラダイエット」を続けていた甲賀甲羅(コウカコウラ)はあるとき会社の健康診断でこのままの食生活を続けていると命が危ないといわれる。
「なぜ!?ダイエットコーラなら健康に無害ではないのか?」
困惑する甲羅の前に髪が半分だけ真っ白い闇医者が現れる。
「おまえさん、ちょいと命を粗末にしすぎなんじゃありませんかね。」
手持ちの360円(ラーメン代と同額)で手術を引き受けてくれることになったのだが・・・ハートフル医療大河ロマン
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このダンジョンから出るには、迷宮に迷い込んでしまった冒険者の誰かの胸に『絆の楔』というマジックアイテムをうち込まなければいけないという呪いがかけられている。つまり一人が絆の生贄にならなければ、残りは出ていけないのだ。赤眼の盗賊は現在胸に『絆の楔』をうち込まれている仲間の代わりに、サラをその生贄にするつもりで生かしておいたのだった。
「お前も食うか。」
盗賊は手鍋を火からはずすと中身を木製の椀によそって、サラに差し出した。正直今は何か食べる気がするわけがなかったが、その椀を黙って受け取った。
―まさか、毒なんて入ってないわよね。―
聞けば『絆の楔』は自分の意志でその胸に打ち込まなければならないという。つまり盗賊の目的のためにはサラの協力が必要なのだ。今更毒物を飲ませるわけはないだろうとも思ったが、口をつけられずにいると盗賊が先に手鍋の中身を啜った。
サラは男に尋ねた。
「もし私が、その『絆の楔』を打ち込むのを拒否したらどうするつもりよ。」
「お前がその気になるまで、痛めつける。それでもだめなら、殺す」
赤眼のポークルは平然とそういった。脅しも威嚇もないその声色からは、かえってこの男が必ずそうするだろうという凄みが感じられた。間違いなく、拒否すればサラは殺されるだろう。サラが死んでもこの男には別段困ることはないのだ。ただ次の獲物を見つけるまでが多少手間だというだけの話だ。
「もしかして、このダンジョンの情報を流したのもあんたなの?」
「ああ、うまそうな話に尾ひれをつけてな。かといって手ごわい隊が大勢で来られてもこまる。これでもなかなか気を使って招待したんだ。」
数か月がかりで獲物がかかるのを待ったということか。自分たちは初めから、この男の手の上で踊っていたということだ、サラは撒き餌にのこのこと食いついてここまで来てしまった自分の間抜けさに歯噛みして、一口だけ椀の中身を口に流し込んだ。
「べっ・・!!マズっ!!あんたこれ市販の携帯食を調理して、なんでこんな味になるわけ?」
苦々しい顔ででひとしきり口の中のものを吐き出すと、サラは椀を置いて黙り込んだ。
「・・・相棒にもよく言われたよ。お前の作る飯はまずいってな。そういえばアイツ以外に飯を作ったことはなかったな。そうか、ほんとうにまずかったのか。」
少しだけ、盗賊の雰囲気が緩んだような気がした。相棒とのかつてのやり取りを思い出しているのかもしれなかった。赤眼のポークルは自分の手鍋の中身を飲み干すと、サラに向き直った。
「・・・さあ、時間だ。絆の楔を受け入れるか、死ぬか、選べ。」
急激に二人の間の空気が冷え込むような気がした。拒めばこの男は今、サラを殺す。サラには選択肢がなかった。意を決してサラは言った。
「わかったわ。『絆の楔』を受け入れるわ。」
だけど―とサラは続けた。
「一つだけ、条件がある。」
サラが出した条件とは「仲間たちの遺体」に関するものだった。『絆の楔』を打ちこまれたものは次の誰かにその楔を抜かれるまでこのダンジョンに捨て置かれる。身寄りも、ほかに仲間もいないサラにとって誰かが救出に来てくれる可能性はほぼ0だろう。何年も、最悪何百年も誰も来ないかもしれない。よって運よく誰かに楔を抜いてもらえたとしても仲間たちの遺体が腐り果て、復活すらかなわない状態になっている可能性があった。だから、サラは仲間の遺体を灰にして、遺体回収用の灰壺に詰めさせてくれと言ったのだ。
「いいだろう。」
初め難色を示されるかと思ったが、赤眼の盗賊はあっさりこの条件を飲んだ。彼にしてもサラは何か月にもわたる慎重な情報操作でおびき寄せた大切な身代わりなのだ。ここでもめて殺してしまうことになるよりはいいと思ったのかもしれなかった。
ご丁寧なことにパックとアルフレッドの死体はフロアの隅に移動させられていた。サラは所持品の中から返してもらった焼夷剤で二人の遺体の一部を灰にすると、手早くそれを灰壺に集め。腰のベルトにつるした。
「まあ、次の誰かが来たらうまくやるんだな。運が良ければ生還できるだろう。」
―どの面でそんなことを言うのか。サラは盗賊を睨みつけたが、赤眼のポークルは平然とした様子だった。
「それではそろそろ、つとめを果たしてもらおう。」
そういうと、彼はサラをポークルの女戦士のそばに連れて行った。どう見ても死んでいる女戦士の体には確かに虹色の割欠片けのようなものが刺さっていた。
盗賊は女戦士の胸から割欠片を一気に引き抜いた。すると話に聞いていた通り、体が大きくはね、息を吹き返したようだった。
「!?―はっ、はぁ」
「大丈夫か?待ってろ。」
盗賊が苦しそうに喘ぐ彼女のフルバイザーを外した。下から出てきたのは、鎖帽子を付けたかわいらしいポークルの女性の顔だった。フードの下にまとめられている髪は、鮮やかな紫色をしている。
「・・・兄さん。」
「うまくいった。よく頑張ったな。」
それは初めて見せる赤目の盗賊の仲間―妹に対する親愛の態度だった。盗賊は女戦士の体に異常がないことを確かめると、彼女を休ませ、サラに向き直って『絆の楔』を投げてよこした。
「みたとおりだ。これは引き抜くだけですぐに息を吹き返す。とんだ『絆の試練』だが・・・恨むならこんなダンジョンを作ったイーリーンを恨むんだな。」
「・・・・・」
「どうした、早くしろ。」
サラは盗賊と女戦士を交互に見た後、意を決して膝をつくと、両手で『絆の証』を握りこみ、一気に自らの胸に突き刺した。
「ふっ―」
肉を貫く音がして、数滴の血のしずくがぱたぱたと滴り、サラは前のめりに拝むような形で崩れ落ちた。血だまりが広がりきって、サラの体が動かなくなったのを確認すると、盗賊は女戦士に向き直った。
「・・・やっと、このクソッタレな迷宮から出られるのね。」
女戦士がやや疲れた面持ちでそういった。
「ああ、骨折り損のくたびれもうけとはこのことだな。さあ、もうこんなところはさっさとでていこう。」
そういって盗賊が女戦士に肩をかし、立たせようとしたとき、彼は信じられないものを見た。眼前に突如空間が裂けるようにひびが入り、その中から、悪鬼のようなモンスターが姿を現そうとしていた。
「なんだと!?」
唐突にフロア全体に重々しい声が鳴り響いた。
『・・・我はイーリーンに創造されし、迷宮の番人ヌアート。汝ら盟輩に絆の証を立てることなくここより立ち出ることかなわず。我、ここに汝らの薄情を戒めん』
「ばかな。」
思わず盗賊がそうつぶやいた。先ほどサラが倒れ伏したところを見ると、そこには血だまりと空のポーションの瓶が一本転がっているばかりで、サラの姿が見当たらなかった。
「あいつ!!」
あの女盗賊は『絆の楔』を打ち込む瞬間、何か別のモノで胸を突き、『絆の楔』を使ったと見せかけたのだ。完全に丸腰だと思っていたが、どこかに武器を隠し持っていたのだろうか。
赤眼の盗賊が当たりの気配をうかがうと、虚空から『絆の楔』が投げてよこされた。彼は空中でそれを受け止めると、舌打ちした。
―姿隠しか。
「兄さん!!」
女戦士が叫んだ。ヌアートの呼び出した新たな悪魔が、今まさに現界し二人に襲いかかってこようとしていたのだ。
「少しだけ、おしとどめていてくれ。俺はあの盗賊を始末する。」
「わかったわ。」
女戦士が自分の槍を取り、正眼に構えた。彼女の実力なら、しばらくは大丈夫だろう。だが面倒なのは逃げた女盗賊だ。闇の中を不可視の女盗賊が走り回る気配がする。
「やるつもりか、盗賊。俺たちを出し抜いたつもりだろうが、どのみち絆の楔を使わない限り、だれもこの迷宮からは出られんぞ。」
「・・・・・」
返事はなかった。あくまでやり合うつもりのようだった。
「莫迦め。」
そういうと赤眼の盗賊も姿隠しをつかった。その姿が掻き消えるようにして、見えなくなる。
しばらく闇の中を二人の盗賊が走り回る音だけが聞こえた。お互いの姿は見えない。相手の気配を、足音を探りながら繰り広げられる、それは盗賊と盗賊の戦いだった。
「うっ・・・」
突如サラの姿が現れた。姿隠しの効果が切れたのだ。やはり赤眼の盗賊の技の方が上だった。サラは物陰に身を隠そうとしたところを背後から出現した赤眼の盗賊に羽交い絞めにされた。
「残念だったな・・!いくつか罠を仕掛けてもいたようだが・・・爆発罠か?俺が教科書通りの誘導に乗って踏んでくれると思ったのか。」
そういいながら、盗賊は短刀と絆の証を両手に持ちながらサラの首を締め上げる。サラは何とか自分の腕をすべり込ませて極められるのをわずかに防いだが、全く身動きが取れない。秘密のポーチのなかに隠し持っていた短刀で背後の敵を刺すこともできなかった。
「死ね・・・」
盗賊が殺意を込めて一層締め上げようとしたとき、サラが苦しげにうめいた。
「あ、あんたは踏まないでしょうね。でもあそこのあいつはどうかしら?」
盗賊が目を凝らすと、サラが仕掛けた罠がちょうど女戦士に迫るモンスターの前に設置されていた。あの距離では罠が発動した瞬間女戦士も巻き込まれるに違いない。爆発罠は盗賊の持つ罠の技のなかで最も殺傷力のある種類だ。鍛えられた戦士と言えども、まともに巻き込まれれば命はないだろう。
「クソ!」
赤眼の盗賊はとっさにサラを突き放した。だが、間に合わない。悪魔はあと一歩で罠を踏み込む位置まで来ており、女戦士は目の前のモンスターに集中していて、足元の罠に気が付いてないようだった。
「このっ・・・盗賊がっ」
赤眼の盗賊は『絆の楔』をふりあげると、勢いよくそれを自分の胸に突き刺した。その瞬間、女戦士に襲いかかろうとしていた悪魔の姿が掻き消え、声が響いた。
『汝、我に絆の証を示せり、その義情をもって絆の試練はここに果たされん』
「兄さん!?」
目の前にいままさに襲い掛かろうとしていた悪魔が消えたことで驚いた女戦士が二人の方を振り向く。そのとき、彼女の顔面に向かって、ナイフが投擲された。
「ふっ」
しかしとっさの奇襲にも薄皮一枚切らせたのみでナイフを避けた女戦士は、倒れ伏す赤眼の盗賊と、今自分にナイフを投擲したサラをみて、状況を理解した。
「おのれっ」
槍の穂先をサラに向けて、突進しようとした女戦士だが、突如体のバランスを崩して、勢いよく倒れた。サラが投擲したのは赤眼の盗賊が持っていた麻痺毒の塗られたナイフだったのだ。サラは赤眼の盗賊が倒れる瞬間、とっさにポークル盗賊からこの逸品を抜き取って投げたのだった。
激しく肩で息をつくサラと、毒によって身動きの取れない女盗賊。勝敗は決した。時間にすればわずか20秒足らずの戦いだったが、サラの人生の中で最も激しい死闘だった。
「くそっ・・・」
サラは呼吸を整えると、うめく女戦士のそばに歩み寄り、彼女の得物を足で蹴り飛ばした。
―殺すか。
この女戦士も相当の達人である。今回は奇襲が成功したのでどうにかなったが、戦士の体力と回復力は驚異的だ。いつ麻痺毒が切れて襲い掛かってくるか知れたものではない。憂いは断つ、それは危険と常に背中合わせに生きる冒険者の基本的な態度だった。
サラは女戦士の首筋に刃を中て、しかしそこで短剣をさやに戻した。
「ふふ、殺さないでおいてあげるわ。あんたの兄貴の作るクソ不味い飯をこれから先一生食う方が、あんたにとってはつらいだろうしね・・・」
「舐めやがって・・・盗賊がっ」
女戦士の呪詛の言葉を背に受けて、サラは足早にその場を立ち去った。
自分の荷物の回収もそこそこに、サラはこのダンジョンの出口を目指した。思えばあの赤眼の盗賊が言うようにとんだ骨折り損のくたびれもうけだ。何も手に入らなかったばかりか、街に帰ったところでパックとアルフレッドが生き返るためのクオパティ神殿への寄付金で大赤字だった。しかしそれでもあのグランデヴィルより恐ろしい兄妹の冒険者を相手に生還できたのだ。この上無事に仲間が蘇生できれば万々歳ともいえた。
ダンジョンの出口が見えてきた。サラはチラリとあの兄妹はどうするのだろうかと考えた。また次の犠牲者が来るのを待つつもりだろうか。だがいずれにせよもう自分には関係のない話だ。そしてできれば二度とあの二人には会いたくない。
サラは息を切らして朝光の差し込むダンジョンの出口に飛び込むと、一度だけ後ろをふりかえった。
―絆の試練場ね、ひどい迷宮だったけど、確かにあんたらの絆は本物だったわ。幸運を、盗賊。
「さ、帰りましょ。アル、パック」
そして、腰に下げた灰壺を軽く叩いた。
このダンジョンから出るには、迷宮に迷い込んでしまった冒険者の誰かの胸に『絆の楔』というマジックアイテムをうち込まなければいけないという呪いがかけられている。つまり一人が絆の生贄にならなければ、残りは出ていけないのだ。赤眼の盗賊は現在胸に『絆の楔』をうち込まれている仲間の代わりに、サラをその生贄にするつもりで生かしておいたのだった。
「お前も食うか。」
盗賊は手鍋を火からはずすと中身を木製の椀によそって、サラに差し出した。正直今は何か食べる気がするわけがなかったが、その椀を黙って受け取った。
―まさか、毒なんて入ってないわよね。―
聞けば『絆の楔』は自分の意志でその胸に打ち込まなければならないという。つまり盗賊の目的のためにはサラの協力が必要なのだ。今更毒物を飲ませるわけはないだろうとも思ったが、口をつけられずにいると盗賊が先に手鍋の中身を啜った。
サラは男に尋ねた。
「もし私が、その『絆の楔』を打ち込むのを拒否したらどうするつもりよ。」
「お前がその気になるまで、痛めつける。それでもだめなら、殺す」
赤眼のポークルは平然とそういった。脅しも威嚇もないその声色からは、かえってこの男が必ずそうするだろうという凄みが感じられた。間違いなく、拒否すればサラは殺されるだろう。サラが死んでもこの男には別段困ることはないのだ。ただ次の獲物を見つけるまでが多少手間だというだけの話だ。
「もしかして、このダンジョンの情報を流したのもあんたなの?」
「ああ、うまそうな話に尾ひれをつけてな。かといって手ごわい隊が大勢で来られてもこまる。これでもなかなか気を使って招待したんだ。」
数か月がかりで獲物がかかるのを待ったということか。自分たちは初めから、この男の手の上で踊っていたということだ、サラは撒き餌にのこのこと食いついてここまで来てしまった自分の間抜けさに歯噛みして、一口だけ椀の中身を口に流し込んだ。
「べっ・・!!マズっ!!あんたこれ市販の携帯食を調理して、なんでこんな味になるわけ?」
苦々しい顔ででひとしきり口の中のものを吐き出すと、サラは椀を置いて黙り込んだ。
「・・・相棒にもよく言われたよ。お前の作る飯はまずいってな。そういえばアイツ以外に飯を作ったことはなかったな。そうか、ほんとうにまずかったのか。」
少しだけ、盗賊の雰囲気が緩んだような気がした。相棒とのかつてのやり取りを思い出しているのかもしれなかった。赤眼のポークルは自分の手鍋の中身を飲み干すと、サラに向き直った。
「・・・さあ、時間だ。絆の楔を受け入れるか、死ぬか、選べ。」
急激に二人の間の空気が冷え込むような気がした。拒めばこの男は今、サラを殺す。サラには選択肢がなかった。意を決してサラは言った。
「わかったわ。『絆の楔』を受け入れるわ。」
だけど―とサラは続けた。
「一つだけ、条件がある。」
サラが出した条件とは「仲間たちの遺体」に関するものだった。『絆の楔』を打ちこまれたものは次の誰かにその楔を抜かれるまでこのダンジョンに捨て置かれる。身寄りも、ほかに仲間もいないサラにとって誰かが救出に来てくれる可能性はほぼ0だろう。何年も、最悪何百年も誰も来ないかもしれない。よって運よく誰かに楔を抜いてもらえたとしても仲間たちの遺体が腐り果て、復活すらかなわない状態になっている可能性があった。だから、サラは仲間の遺体を灰にして、遺体回収用の灰壺に詰めさせてくれと言ったのだ。
「いいだろう。」
初め難色を示されるかと思ったが、赤眼の盗賊はあっさりこの条件を飲んだ。彼にしてもサラは何か月にもわたる慎重な情報操作でおびき寄せた大切な身代わりなのだ。ここでもめて殺してしまうことになるよりはいいと思ったのかもしれなかった。
ご丁寧なことにパックとアルフレッドの死体はフロアの隅に移動させられていた。サラは所持品の中から返してもらった焼夷剤で二人の遺体の一部を灰にすると、手早くそれを灰壺に集め。腰のベルトにつるした。
「まあ、次の誰かが来たらうまくやるんだな。運が良ければ生還できるだろう。」
―どの面でそんなことを言うのか。サラは盗賊を睨みつけたが、赤眼のポークルは平然とした様子だった。
「それではそろそろ、つとめを果たしてもらおう。」
そういうと、彼はサラをポークルの女戦士のそばに連れて行った。どう見ても死んでいる女戦士の体には確かに虹色の割欠片けのようなものが刺さっていた。
盗賊は女戦士の胸から割欠片を一気に引き抜いた。すると話に聞いていた通り、体が大きくはね、息を吹き返したようだった。
「!?―はっ、はぁ」
「大丈夫か?待ってろ。」
盗賊が苦しそうに喘ぐ彼女のフルバイザーを外した。下から出てきたのは、鎖帽子を付けたかわいらしいポークルの女性の顔だった。フードの下にまとめられている髪は、鮮やかな紫色をしている。
「・・・兄さん。」
「うまくいった。よく頑張ったな。」
それは初めて見せる赤目の盗賊の仲間―妹に対する親愛の態度だった。盗賊は女戦士の体に異常がないことを確かめると、彼女を休ませ、サラに向き直って『絆の楔』を投げてよこした。
「みたとおりだ。これは引き抜くだけですぐに息を吹き返す。とんだ『絆の試練』だが・・・恨むならこんなダンジョンを作ったイーリーンを恨むんだな。」
「・・・・・」
「どうした、早くしろ。」
サラは盗賊と女戦士を交互に見た後、意を決して膝をつくと、両手で『絆の証』を握りこみ、一気に自らの胸に突き刺した。
「ふっ―」
肉を貫く音がして、数滴の血のしずくがぱたぱたと滴り、サラは前のめりに拝むような形で崩れ落ちた。血だまりが広がりきって、サラの体が動かなくなったのを確認すると、盗賊は女戦士に向き直った。
「・・・やっと、このクソッタレな迷宮から出られるのね。」
女戦士がやや疲れた面持ちでそういった。
「ああ、骨折り損のくたびれもうけとはこのことだな。さあ、もうこんなところはさっさとでていこう。」
そういって盗賊が女戦士に肩をかし、立たせようとしたとき、彼は信じられないものを見た。眼前に突如空間が裂けるようにひびが入り、その中から、悪鬼のようなモンスターが姿を現そうとしていた。
「なんだと!?」
唐突にフロア全体に重々しい声が鳴り響いた。
『・・・我はイーリーンに創造されし、迷宮の番人ヌアート。汝ら盟輩に絆の証を立てることなくここより立ち出ることかなわず。我、ここに汝らの薄情を戒めん』
「ばかな。」
思わず盗賊がそうつぶやいた。先ほどサラが倒れ伏したところを見ると、そこには血だまりと空のポーションの瓶が一本転がっているばかりで、サラの姿が見当たらなかった。
「あいつ!!」
あの女盗賊は『絆の楔』を打ち込む瞬間、何か別のモノで胸を突き、『絆の楔』を使ったと見せかけたのだ。完全に丸腰だと思っていたが、どこかに武器を隠し持っていたのだろうか。
赤眼の盗賊が当たりの気配をうかがうと、虚空から『絆の楔』が投げてよこされた。彼は空中でそれを受け止めると、舌打ちした。
―姿隠しか。
「兄さん!!」
女戦士が叫んだ。ヌアートの呼び出した新たな悪魔が、今まさに現界し二人に襲いかかってこようとしていたのだ。
「少しだけ、おしとどめていてくれ。俺はあの盗賊を始末する。」
「わかったわ。」
女戦士が自分の槍を取り、正眼に構えた。彼女の実力なら、しばらくは大丈夫だろう。だが面倒なのは逃げた女盗賊だ。闇の中を不可視の女盗賊が走り回る気配がする。
「やるつもりか、盗賊。俺たちを出し抜いたつもりだろうが、どのみち絆の楔を使わない限り、だれもこの迷宮からは出られんぞ。」
「・・・・・」
返事はなかった。あくまでやり合うつもりのようだった。
「莫迦め。」
そういうと赤眼の盗賊も姿隠しをつかった。その姿が掻き消えるようにして、見えなくなる。
しばらく闇の中を二人の盗賊が走り回る音だけが聞こえた。お互いの姿は見えない。相手の気配を、足音を探りながら繰り広げられる、それは盗賊と盗賊の戦いだった。
「うっ・・・」
突如サラの姿が現れた。姿隠しの効果が切れたのだ。やはり赤眼の盗賊の技の方が上だった。サラは物陰に身を隠そうとしたところを背後から出現した赤眼の盗賊に羽交い絞めにされた。
「残念だったな・・!いくつか罠を仕掛けてもいたようだが・・・爆発罠か?俺が教科書通りの誘導に乗って踏んでくれると思ったのか。」
そういいながら、盗賊は短刀と絆の証を両手に持ちながらサラの首を締め上げる。サラは何とか自分の腕をすべり込ませて極められるのをわずかに防いだが、全く身動きが取れない。秘密のポーチのなかに隠し持っていた短刀で背後の敵を刺すこともできなかった。
「死ね・・・」
盗賊が殺意を込めて一層締め上げようとしたとき、サラが苦しげにうめいた。
「あ、あんたは踏まないでしょうね。でもあそこのあいつはどうかしら?」
盗賊が目を凝らすと、サラが仕掛けた罠がちょうど女戦士に迫るモンスターの前に設置されていた。あの距離では罠が発動した瞬間女戦士も巻き込まれるに違いない。爆発罠は盗賊の持つ罠の技のなかで最も殺傷力のある種類だ。鍛えられた戦士と言えども、まともに巻き込まれれば命はないだろう。
「クソ!」
赤眼の盗賊はとっさにサラを突き放した。だが、間に合わない。悪魔はあと一歩で罠を踏み込む位置まで来ており、女戦士は目の前のモンスターに集中していて、足元の罠に気が付いてないようだった。
「このっ・・・盗賊がっ」
赤眼の盗賊は『絆の楔』をふりあげると、勢いよくそれを自分の胸に突き刺した。その瞬間、女戦士に襲いかかろうとしていた悪魔の姿が掻き消え、声が響いた。
『汝、我に絆の証を示せり、その義情をもって絆の試練はここに果たされん』
「兄さん!?」
目の前にいままさに襲い掛かろうとしていた悪魔が消えたことで驚いた女戦士が二人の方を振り向く。そのとき、彼女の顔面に向かって、ナイフが投擲された。
「ふっ」
しかしとっさの奇襲にも薄皮一枚切らせたのみでナイフを避けた女戦士は、倒れ伏す赤眼の盗賊と、今自分にナイフを投擲したサラをみて、状況を理解した。
「おのれっ」
槍の穂先をサラに向けて、突進しようとした女戦士だが、突如体のバランスを崩して、勢いよく倒れた。サラが投擲したのは赤眼の盗賊が持っていた麻痺毒の塗られたナイフだったのだ。サラは赤眼の盗賊が倒れる瞬間、とっさにポークル盗賊からこの逸品を抜き取って投げたのだった。
激しく肩で息をつくサラと、毒によって身動きの取れない女盗賊。勝敗は決した。時間にすればわずか20秒足らずの戦いだったが、サラの人生の中で最も激しい死闘だった。
「くそっ・・・」
サラは呼吸を整えると、うめく女戦士のそばに歩み寄り、彼女の得物を足で蹴り飛ばした。
―殺すか。
この女戦士も相当の達人である。今回は奇襲が成功したのでどうにかなったが、戦士の体力と回復力は驚異的だ。いつ麻痺毒が切れて襲い掛かってくるか知れたものではない。憂いは断つ、それは危険と常に背中合わせに生きる冒険者の基本的な態度だった。
サラは女戦士の首筋に刃を中て、しかしそこで短剣をさやに戻した。
「ふふ、殺さないでおいてあげるわ。あんたの兄貴の作るクソ不味い飯をこれから先一生食う方が、あんたにとってはつらいだろうしね・・・」
「舐めやがって・・・盗賊がっ」
女戦士の呪詛の言葉を背に受けて、サラは足早にその場を立ち去った。
自分の荷物の回収もそこそこに、サラはこのダンジョンの出口を目指した。思えばあの赤眼の盗賊が言うようにとんだ骨折り損のくたびれもうけだ。何も手に入らなかったばかりか、街に帰ったところでパックとアルフレッドが生き返るためのクオパティ神殿への寄付金で大赤字だった。しかしそれでもあのグランデヴィルより恐ろしい兄妹の冒険者を相手に生還できたのだ。この上無事に仲間が蘇生できれば万々歳ともいえた。
ダンジョンの出口が見えてきた。サラはチラリとあの兄妹はどうするのだろうかと考えた。また次の犠牲者が来るのを待つつもりだろうか。だがいずれにせよもう自分には関係のない話だ。そしてできれば二度とあの二人には会いたくない。
サラは息を切らして朝光の差し込むダンジョンの出口に飛び込むと、一度だけ後ろをふりかえった。
―絆の試練場ね、ひどい迷宮だったけど、確かにあんたらの絆は本物だったわ。幸運を、盗賊。
「さ、帰りましょ。アル、パック」
そして、腰に下げた灰壺を軽く叩いた。
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うおおおお
うおおおおお><
なんとなんとぉ><
そこであの闇医者が出てくるのか…!!
ポーチに入れてたナイフが、そんな使われ方をするとは…!
伏線の張り方がプロだね!
面白かった~♪お疲れ様でした!
なんとなんとぉ><
そこであの闇医者が出てくるのか…!!
ポーチに入れてたナイフが、そんな使われ方をするとは…!
伏線の張り方がプロだね!
面白かった~♪お疲れ様でした!
すごいね・・・
お話の作り方といい、描写とか人物の感情とか分かりやすくて読みやすくて、しかもすごくリアルだね・・・。
さすがダミーだね!
とっても楽しく読ませて頂きました!
私的にはプリの話が楽しみで仕方ないですw
・・・こっそり私も何か書いてみよっとw
ありがとうございました!
さすがダミーだね!
とっても楽しく読ませて頂きました!
私的にはプリの話が楽しみで仕方ないですw
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なんか一生懸命押したり書いたりする仕事
趣味:
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弱い。ひたすら弱い。とにかく弱い
あるときは宝箱の中から爆弾を出すシーフ、またあるときは攻撃の届かないファイター。
ただ皆様の平和と健康と幸福を祈るだけの存在
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プレイヤーで作る『ファッション重視』のイベントについての質問です。
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— (堕ω美) (@superstreetwiz) 2015, 12月 7