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「なんだ……外が騒がしいな。おい、誰か見てこい」
クオパティの上級司教、ギジャンバー卿ははだけたローブからでっぷりと肥えた腹をはみ出させ、右左に半裸の遊女の肩を抱き、さらに膝の上にもうひとり乗せたまま、ベッドの上からそう怒鳴った。
床で阿片を吸い過ぎて意識を失いかけていた男の1人がよろよろと立ち上がり、広い部屋のあちこちで酔い潰れ、魅惑の白い粉の中に顔を突っ込んで酩酊している裸の女を踏まないようにして部屋の入口に向かって歩き出した。
「……まったくクソの役にも立たん傭兵どもが。草と女で骨抜きになる以外にまともな戦士として仕事をしろ。お前らにひと月いくら払っていると思っている。近所のガキをおとなしくさせることもできんのか。」
ぶつくさ言いながら、ベッドの横に備え付けられたナイトテーブルの上に乗せられたバスケットから一粒ブドウをねじ切ると、口の中に放り込んで音を立てて咀嚼した。
「おお、お前らは何もこわがらんでいいぞ。ここにいなさい。」
そうしてギジャンバーは鼻の下を伸ばしながら両脇の遊女の胸の谷間を凝視する。豊かな双丘がブドウの房のように揺れている。
「むふっ……おや、ここにももう一つブド」
クオパティの聖職者にあるまじき卑猥な台詞を口走ろうとしたとき、扉の外から男の悲鳴が聞こえてきた。先ほど様子を見に行った傭兵戦士のものだ。
「!」
さすがにただならぬ事態がおこっていることを察して、ギジャンバーはしなだれかかっている女を蹴飛ばしてベッドから飛び降りようとした。その時。
部屋のドアが外側から魔法による爆発で吹き飛び、間をおかず幾人もの完全武装した戦士たちがなだれ込んできた。
「ォラ、パーティは終わりだ。抵抗するやつばらどもは殺せ、女どもは服を着せてとっととここから蹴り出せ。」
指揮をとっているのはどうやらエルフの女のようだった。真っ赤なプレートアーマーにクオパティの聖印を付けている。
「売女ども、あと十数える間に部屋から出てけ。さもないとその無駄にでかい胸と尻を切りつづめてやるぞ。」
「な、何者だ!」
脱兎のごとく女たちが逃げ出していく中、狼狽しつつもギジャンバーは侵入者にそう叫んだ。
「お初にお目にかかります。ギジャンバー上級司教様。わたくし、枢機院内聖罰騎士団のエマディル助司教と申します。お見知りおきを。」
「聖罰隊!?それが何でこんなとこに乗り込んできおった!?ここはわしの私邸だぞ!」
「おやおや、落ち着きなさいな。これは少し認識の相違があるようですわね。とりあえずお互いの誤解を解きましょう。おい、お前ら。ギジャンバー卿をこの椅子に座らせて差し上げろ。」
「こら、離せ!離さんか無礼者!」
屈強な武装戦士たちが両脇からギジャンバーを羽交い絞めにして、無理やり椅子に押し込んだ。エマディルも傍の椅子を持ってきて向かい合わせになるように置き、大儀そうに腰かける。
「……何の手違いだ。いや、手違いでは済まさんぞ!わしの家に押し入りおって、このことは必ず異端審査会、いや枢機院に直接上訴するからな!」
エマディルはそこで手を上げてギジャンバーの言葉を遮ると、怒り狂う上級司教の目を見てにたりと笑った。彼女の右の口の端には縦に醜い大きな傷跡が走り、笑うと傷跡の奥の歯茎がむき出しになって、獰猛な虎やライオンが牙をむいているようだった。
「はい、まずそこですわ。この場所はだれのものですって?」
「なに?ここはわしのものだ!わしの買った土地に建てたわしの家だ。その中で何を行おうとも誰にも誹りを受けるいわれはないわい、それを、なぶっ!!」
激昂して叫ぶギジャンバーの頬に、エマディルの平手打ちがさく裂した。ギジャンバーがもんどりうって椅子から転げ落ちそうになるところを、エマディルの部下たちがしっかりと押さえつける。
「ギジャンバー卿……クオパティの上級司教様ともあろうものが、なんと嘆かわしい。」
エマディルが芝居がかった仕草で嘆いた。
「ここがあなたの家ですって?あなたはただこの土地の権利書を買って、そこに家を建てたにすぎませんわ。この地上の土地はすべからく、大いなるアヴルールといと高きクオパティ18世聖下のものです。あなたはいわば彼らの土地に間借りしているに過ぎない。」
「な、何を言っている。この狂人め・・・」
口のはしから血を流しながら、朦朧とした様子でギジャンバーはエマディルを見た。その眼には今や怯えの色しか映っていない。
「よしんば「現世法」にのっとって、この場所をあなたが所有する経緯があったとしても、それもついさっきまでの話ですわ。たった今から、いかなる意味においてもこの場所を所有しているのはあなたではない。」
「……?」
「仕方ありませんね。少し見せてあげましょう。……おい、やれ。」
エマディルが手を上げると、部下の数名が壁際の棚に乗せられていた調度品を叩き落とし始めた。高価な壺や酒瓶が次々と落下して粉々に砕けていく。
「やめろ!!それがいったい何かわかっているのか!!古ダルア時代のエダマン焼きの調度品だぞ!お前らの一年分の俸給より高い!」
ギジャンバーの必死の抗議にもエマディルは肩をすくめるだけだ。
「ぐわああ。それは特級のディメントグラス…くっ…それは…わかった…ここはあんたが支配してる。全部あんたらと大いなるアヴルールのものだ。わかったから、もうやめてくれえ……ううう」
「おい、やめろ・・・。あらあら、それはクオパティ法制院への御寄進の正式な承諾とみてもよろしいですよね?それにしても、御寄進なさるのが泣くほどうれしかったんですね。ご司教様の喜捨魂、とっても素敵ですわ。きっと魂も今ものすっごい勢いで浄化されていっているでしょう。」
パリンと、勢い余って部下の1人がさらに皿を棚から叩き落とした。エマディルがきつく睨む。
「貴様、聞いてなかったのか。それは正式に今、クオパティ法制院の資産に加えられたのだぞ、今割った分の皿の値段はお前の俸給から差っ引くからな。」
部下の1人ががっくりとうなだれ、同僚がひひひと笑う。
「さて、私たちは別にご司教様に喜捨を迫りに来たわけではございませんのよ。話を本題に移らせていただきましょう。」
「なんだと?まだなにかあるのか?」
「大ありですわ。別にね、私たちはあなたが隠れ家で生誕祭のびっくりケーキ並みの乳と尻を持つノーム女をいくらなめまわそうと、そんなことはどうでもいいのよ。」
異相のエルフの女戦士が懐から一枚の羊皮紙を取り出した。
「これが何かご存知?」
「なんだ・・・。そ、それは。」
ギジャンバーには見覚えがあった。それは彼が六年前、下部異端審査会に居た時に第二書記として発議した『マクガット国王ノ狂王ニ至ル疑イ』という議会報告書だった。
「あら、お忘れ?あなたがこれを六年前発議したからここから少し南のマクガットという小国の王は貴族たちに寄ってたかって殺されたんじゃなくて?」
「……そんな、六年前の報告書が何だっていうんだ。わしは、正式な手続きをとってそれを発議したにすぎん!ちゃんと当時の議事録にも乗っているわい!」
「確かに。やや審議時間が短かった以外はさしてこの報告書は問題はないですわね。」
「そ、そうだろう……」
「ですが、あなた何故6年前から架空の商社の名前を使ってマクガットの土地をいくつか所有しているのかしら?レーヴェン地方に三件、オドレーヌ地方に三件。どれもいい土地ね。」
エマディルがにたりと笑ってギジャンバーの目を覗き込んだ。じゅるり、とよだれをすする音がする。
「知らん!なんだその話は!だいたい私は当時いち書記にしか過ぎない、その報告書はもともと当時下部異端審査会の議長だったデレッドレーン上級司教様の要請で・・・・・」
ひゅっと。何モノかが、ギジャンバーの足元に投げられた。ギジャンバーはそれが何か理解して悲鳴を上げる。
「デ、デレッドレーン上級司教……」
それはデレッドレーン上級司教の「ちょんぱ」られたなまくびだった。苦痛にゆがみ、顔には無数の拷問に似た傷跡がある。
「そのにやけた背信者さんの頭がまだ胴体につながっていた時、すべてお話ししてくださいましたわ。あなたとその方がマクガット王国内の貴族の秘密要請を受け、マクガット国内の不動産といくばくかの金を引き換えに強引にあの報告書を提出したと……」
「おえっ……げえええええ」
ギジャンバーは吐いた。彼を襲った恐怖が胃の中の酒と肉と胃液を床にぶちまけてさせたのだ。
「うえ……ちょっと。レディの前で少しお行儀が悪いんじゃなくて?」
「お・・・お前ら、人間か。こんな恐ろしいことをしおって。それでもクオパティの聖職者か。」
「なんだと……?」
エマディルがおもむろに立ち上がりざま椅子の足をけり倒し、ギジャンバーを床に這いつくばらせた。肩を踏みつけて動けなくする。
「お前らの出した無意味な報告書のせいで、おおぜいが死んだ。家も土地も失った大勢のアヴルールの信徒が焼け出された。国は六年たった今でも混乱の極み、かの国は戦乱の最中にある。それが、人間のやる事か?貴様、それでもクオパティの聖職者なのか。」
「お、おのれ……聖罰隊風情が。宗教裁判のつもりか……」
呪詛のこもったまなざしでギジャンバーがエルフの狂相の戦士を見上げた。
「宗教裁判?それも違うね。これは処刑だ。アタシ達は聖罰隊。征伐するのがアタシ達の仕事なんだよ。」
「まさか邪教徒でもない正式な上級司教のわしを殺すつもりか……!?」
エマディルがかかとに力を入れた。
「クソ野郎。アタシがこの仕事をしてんのはな、アタシが許せねえのは邪教徒じゃないからだよ。いくら異教の神、邪教の神を奉じていたって、回心して資産を投げ出しさえすればおおいなるアヴルールはいつだってすべからくまるっとお許しになってくださる。もしそれが人間だろうがゴブリンだろうが、吸血鬼だろうがな。」
じゅるり。とよだれをすする音がした。エマディルがマントの下から短い火縄銃を取り出し弾を込める。
「ギジャンバー。アタシが許せねえのは「黄衣の王」の衣を笠に着た、貴様らの様な蛆虫だ。お前はアヴルールの名を持ってアヴルールを語り、アヴルールの力を偽ってアヴルールとして振る舞った。アタシはそれだけは絶対許せねえ。アタシの敵はそういった奴らだ。」
「ご司教様、お前はただのぺてん師だよ。」
鉄靴に踏みつけられたギジャンバーが苦しげにうめく。
「この…狂人め。灰まで呪われ……」
銃声が一発鳴り響き、ギジャンバーの呪詛の言葉が途切れた。
「死ぬときぐらいクオパティの聖職者らしくしやがれ。おおっと、でもアタシはあんたの魂を「祝福」するがな。下水のハイドビートルにでも生まれ変わってもう一回真面目に輪廻をやり直しな。アヴルール・ブレス・ユー」
そして顔にギジャンバーの返り血が付いたまま、銃口からたなびく硝煙をひと吹きした。
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プレイヤーで作る『ファッション重視』のイベントについての質問です。
審査員などによるコーデを採点する方式のイベントと、採点を行わないショー的要素が強いイベントどっちを見てみたい?参加してみたい?
— (堕ω美) (@superstreetwiz) 2015, 12月 7