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このブログは、wizon wizardryonline (ウィザードリィオンライン)のプレイ風景をつづったものです JP現アルバロア鯖で活動しているプレイヤーの個人日記です。
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これまでの小説まとめ
 
前回【戦士】④中後編 はこちら。

次回【戦士】⑤-1は はこちら

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***********************************
 

 

「ガス様……」

 

 その時、ナティルの部屋からナティルと、アフレアの2人があらわれた。ナティルは女子が着る衣服を着ている。まあ、この家にはナティルが着ることができる男子の服などないのだが。

 

 ガスが寝台から飛び起き、膝をつくと14歳の少女……少年に臣下の礼をとった。ビジョンも同じように膝をついて首を垂れる。

 

「先ほどはまことに御無礼を働きました。」

 

 再度ナティルの部屋に押し入った無礼をわびる。

 

「かまいません。それにもともと明らかになるべきことだったのです。」

 

 ナティルは思いのほか落ち着いていた。

 

「今、アフレア……母から聞きました。わたしは遠く、マクガット国の前王、ヨーレイナロウ王の血を引く…息子なのだそうですね。」

 

 事ここに至って、アフレアはすべてをナティルに打ち明けたのだろう。青い顔でうつむきながらアフレア、元バッツ夫人だった女は息子の後ろに控えていた。目元には泣きはらした痕がある。

 

「間違いございません。ナティル様。御身はそこな御婦人と我が君ヨーレイナロウⅡ世との間にお生まれになった、王の御子です。」

 

 アフレアは何かを受け入れるように静かに目を閉じてガスの言葉を聞いている。

 

「お母さん、ありがとう。わたしはあなたが本当の母親でむしろとてもうれしい。」

 

 ナティルがアフレアに向かってそう言うと、ガスに向き直る。

 

「母が、わたしを女として育てたわけがようやく分かりました。女として暮らすことで、わたしを守ってくださっていたのですね。」

 

 ガスにもわかる。すべてはナティルの命と人生を守るためだったのだ。

 

「聞けば、王権の証もあるのだとか。……それでガス様たちはわたしになにをさせようとお思いなのですか?」

 

 ナティルが男子とわかった以上、答えはひとつしかない。先ほどのポマレの言葉を借りるならば「国を興す」のである。

 

「「マクガット家」を…いや「ナティル様の王国」を建てていただきたい。」

 

 そうである。5年前ヨーレイナロウ王の臨終に際して、ガスは何も言わずにこの宝剣を渡された。「しかるべき者へ」その剣を渡すことだけが彼の使命だったはずだ。王は国を取り戻せとは言っていなかった。賊を討てとも言わなかった。王はただ、まだ見ぬ次代の王へとこの宝剣を渡したのだ。

 

「そんなことが、いままで農村の娘としてしか育っていなかった私に、できるとお思いなのですか?」

 

 当然の問いだ。ガスは一瞬瞑目すると思いのたけを口にした。

 

「わかりません。ですが、前マクガット王の御遺志を引き継げる方はナティル様だけであるのも、事実です。」

 

「国を、作る……」

 

 途方もない話である。王の血筋を引いていようとなかろうと、一代で国を興すという決意を持てる個の人格があるとするならば、それはもう生まれ持っての王者であろう。

 

「そこは……」

 

 ナティルが言葉を選びながら続けた。

 

「そこは、戦士のいらぬ国、戦のいらぬ国。恐怖にひきつり怯える民の国ではなく、笑顔で暮らす民の国。それでよいなら、この身を捧げましょう。」

 

 それは、理想だ。いまナティルの語ったのは恥ずかしげもない永久平和の桃源郷である。そんな王国は、そんな国は、そんな土地は。アヴルールがこの天と地を作られてからもしかしたら一度もなかったかもしれない。人は争う、生きるために守るために争う。それは人の本性の一部だからだ、古来から何にもまして「戦士」という職業が絶えたことがないのがその証拠である。

 

だが、その理想郷を作る事目指すことが「国つくり」だったはずではないか。その責務を人の身でありながら背負うことができる者だからこそ「王」なのだ。

 

「ナティル…!」

 

 アフレアは悲痛な声でわが子を呼んだ。もはや二度と帰らぬ厳しい戦いに、いまこの子は踏み出そうとしているのがわかったからだ。母の愛さえ届かぬ、長く苦しい戦いに身を置こうとしているのがわかったからだ。

 

「お母さん、今まで大切に守り育ててくださってありがとうございます。ですがガス様たちが私たちの家を訪れ、ここにこうしているのも大いなるアヴルールのお導きでしょう。」

 

 ナティルの青い瞳に曇りはなかった。まっすぐ母の想いを受け止めて、言葉を続ける。

 

「お母さん、わたしは貧しさが憎い。苦しさが憎い。エドワナ村では心だての優しい人々がみな苦しんで生きていた。朝から晩まで働いて、その財を盗賊や夜盗に奪われるのに怯えていた。「苦しみ」があの村の基本則だった。」

 

 ガスはナティルと出会ったエドワナ村を思い出していた。何の変哲もない、寂しい農村。そこに生まれてそこに生きれば、隣家がそうなるようにそうなる(・・・・・)。夢も希望も持てば崩され、裏切られる。苦しみに鈍麻していく感覚はもはや苦しい事さえ感じない。朝夕の食事にありつけることを不安なしに過ごすことはできないが、それが当たり前として享受される。それはしかしこの地上の王国の一般的な農夫の姿そのものだ。

 

「わたしは「苦しい」ということをこの世から滅ぼしたい。「苦しい」ことを討ち滅ぼしたい。そして笑顔で大勢の人が暮らせる土地を作る、そんな機会と資格がわたしにあるなら、そのことに身を投じてみたいのです。」

 

 それは確かに未熟ではあるが、紛れもない王の言葉だった。14歳にして、この可憐な少年の魂に宿る王器がそういわせたのだ。

 

「ナティル様」

 

 ガスが懐から厚い布に覆われた、一振りの短剣を恭しく取り出した。『輝宝の短剣』、マクガット王家の血脈を伝える者が持つべき、王の証だ。

 

「どうぞ、今こそこれをお返しするときです。」

 

「これが……その?」

 

「マクガットに代々伝わる、『輝宝の宝剣(ストーンソード)』。正当な王家の証です。前王が身罷られた時より、お預かりし上げておりました。これは、今のナティル様にこそ御返しすべきものです。」

 

「ありがとう。」

 

 ナティルがガスの手から宝剣を受け取った。マクガットの王宮戦士、近衛戦士の長い間背負い続けていた任務がようやく、今正しく達成されたのだ。ふっと戦士の心中から何か重いものが降りたような気がする。

 

 ガスは、もう一度かしこまると、ナティルに向かってこういった。

 

「ナティル閣下、これより戦士ガス=ペーパードリック、三度死せば蘇り、七度灰になれば復活し、この身を剣と盾に代えて、魂尽きるときまで御傍に侍り、ご奉公いたします。」

 

 マクガットではるかな昔、故ヨーレイナロウ王にささげた聖なる主従の誓いを、新たな主君に対して誓ったのだ。ガスは自らの魂が生まれ変わったような気がした。「耐え忍ぶ時代は終わった」エドワナ村でバッツに言ったその言葉は、実はガス自身に向けられたものではなかったか。耐え忍ぶ時代は終わったのだ、これより先はナティルのために()の臣下として剣を振るう、それがガスの新たな責務となる

 

「うれしいわ。ガス様の様な強い戦士に守ってもらえるのならば、きっとなんだってできますわね。」

 

 若き王子の振る舞いは、少女のそれである。

 

「ところで、早速ひとつお頼みしたいことがあるんです。」

 

「頼みなどと、わが主。これより先はただ命じていただければ、この身命に代えて遂行いたします。」

 

「ガス様の買ってきてくださったというお洋服、頂いてあちらで着て来てもいいかしら。先ほどから待ち遠しかったのです。」

 

 王子はコロコロと笑ってそう言った。

 

 この「女装の王子」を真の王に仕立てていくことが、とりあえずガスに課せられた新たな課題(ミッション)であることを痛感しながら、戦士は深いため息をつく。「王土建設」はどうやら思っていた以上になみなみならぬ大業のようである



*次回妄想小説 【戦士】⑤-1はこちら

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