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このブログは、wizon wizardryonline (ウィザードリィオンライン)のプレイ風景をつづったものです JP現アルバロア鯖で活動しているプレイヤーの個人日記です。
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これまでの小説まとめ
 
前回【戦士】④-中編 はこちら

次回【戦士】④-後編 はこちら
  
  
*●●じゃないからはずかしくないもん!*
 
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「……おかえりなさいまし。そちらの方は?」

 

 隠れ家に使っている郊外の塔の部屋につくと、待機を命じられていたビジョンがまず出迎えた。相変わらず消えかかるような声だが、ガスが連れてきたポークルを目ざとく見咎め、素性を問いただす。しかしガスはそれには答えず、ずんずんと奥へ歩いていく。

 

「あ。あの、今ナティル様は湯あみをなされておいでです。」

 

 珍しく困惑した声でビジョンがガスを制止しようとした。

 

「風呂か?ならばなおの事結構。」

 

 ガスはそう言ってビジョンに買ってきた大量の荷物をおしつけると、ナティルの部屋に向かう。ただビジョンはとまどうばかりだ。彼女が視線を彷徨わせると、ポマレと目が合い、ポークルの商人は片手をあげて苦笑いした。

 

「ナティル様!」

 

「!?」

 

 無遠慮にナティルの部屋の扉を開け放った。確かにナティルは先日取り寄せたばかりの室内用の浴槽に湯を張り、その中に浸かって体を洗っている最中だった。もちろん一糸まとわぬ姿だ。塔の窓から差し込む日の光と水の煌きが美しい日に焼けた金の髪と、健康的な肢体を浮かび上がらせていた。一瞬ガスもそのあられもない輪郭に目が奪われる。

 

「きゃあ」

 

 突然の戦士の狼藉に、ナティルが叫び声をあげるとガスに背を向け湯の中に身を隠した。当然の反応といえよう。

 

「な、何事です。ガス様」

 

「御無礼仕る」

 

 しかしガスは身を隠そうとするナティルの正面に回り込むと、こともあろうに腕をつかみ力任せに押し広げた。

 

「!?」

 

 そこには、ナティルの胸には本来女子の胸にあるべきものがない(・・)。いや、程度(サイズ)の問題ではなく、全くないのだ。また一瞬視線を湯船の奥に沈んだ腰の下にうつせば女子に絶対にあるべきでないものが、確かにあった(・・・)

 

「これは……」

 

「ナティル!」

 

 ただならぬ気配を察して隣室からアフレアが駆けつけた。そして、青ざめた表情のガスとナティルの間に割って入った。

 

「アフレア様……これは……隠していましたな。」

 

「……」

 

 多少にも怒気をはらんだガスの問いかけに、怯えて縮こまって背を丸めるナティルを守る様に抱いたまま、アフレアは何も答えなかった。この母親は、本来男子だったわが子をマクガットの王権を巡る政争から守るために、いままでずっと女子の恰好をさせて育てていたのだ。いかに性別が定かではない程の、少女……いや少年期特有の中性的な容貌だったとはいえ、まんまと騙された。ガスはポマレにこのことを耳打ちされるまで全くナティルの性別を疑ったことさえなかった。見事な化け方である。

 

「ナティル様は男子であらせられたか。」

 

 あの凛とした態度、物おじしない聡明で強い性格。ヨーレイナロウ王の血を引いているとはいえ、今にして思えば男子としての強さの発露だったのかもしれない。

 

「ナティルは……渡しません。この子は、私の子です。」

 

 そういい、ガスを下ら睨みつけるアフレア、いやバッツ夫人の表情に、ガスは一瞬で彼女が別人に化身のような錯覚を覚え、並々ならぬ恐怖を感じた。歴戦の戦士の心胆を寒からしめたもの、それは彼が戦い得ぬもの、勝ち得ぬものへの怖れだった。わが子を守る母の執念にも似た強い思いである。

 

「……ともかく、お話はまた後で。まことに御無礼仕った。」

 

 そう言い残すと、彼は部屋を出て、荷物を持って呆然と立ち尽くすビジョンの横の寝台に、靴のままどっかと体を投げ出した。

 

「商人、お前の言うとおりだった。だがよくこんな秘密を知っていたな、このことをあと何人が知ってる。」

 

 王のおとし子というだけで命を狙われるには十分なのに、男子であるなら敵対する派閥の貴族たちからしてみれば、何としてでも排除したいとおもうのは当然だろう。

 

「おいらだけさ。」

 

「……信じられるか、そんな話。」

 

 珍しくすねたようにガスがそういう。なんだかナティルとアフレア、そしてポマレに仲間外れにされていたような心境である。

 

「あの母子がヨーレイナロウ王と関係あるんじゃないかって踏んだのは実はあんたらよりオイラが先だったんだ。だからそこのおねーちゃんが街中調べまわってる先に、それとなく情報を置いといたってわけ。」

 

 ビジョンが恨めしそうにポマレを見た。

 

「おねーちゃんの名誉のためにいっておくけど、彼女がドジ踏んだって事じゃないぜ。でも4年も5年もこの街でおんなじようなことを嗅ぎまわってたら、いやでもあんたらの事は目につくよ。よく見てるやつら(・・・・・・)にはね。

 

「俺達より先にナティル様を探し当てていただと…?適当なことを。」

 

「あのエドワナ村の僧院。補修費なんかが6年前までマクガット国の秘密口座から出てたんだ。なんで寂れた村の2人しか住んでいない修道院に、大陸の果ての外国から金が流れてるんだ?それも多分前の王様の秘密のお財布からさ。ちょいと考えたらわかることだよ。でも、お兄ちゃんたちそんなこと知らなかっただろ?」

 

 ガスはうなった。たしかにアフレアは王の密使に援助を受けていたといった。自分たちが必死になって5年もかかって突き止めた場所を、この男は糸巻で糸を手繰る様にして簡単に割り出していたのだ。

 

「まさかエドワナ村で俺たちを襲った刺客もお前の差し金というわけじゃないだろう。」

 

 このポークルならそれくらいの事平気でやりそうではあった。

 

「いや、いや。なんで無駄銭つかってそんなことするんだい。まずオイラがこの街で一番早くバッツ親子を見つけたんだから、攫いたいならお兄さんたちが来る前にやるでしょ。」

 

「それで?」

 

 ポマレの説明は一応筋は通っている。

 

「まあ、オイラのせいっちゃおいらのせいかもしれないけどさ。たぶんおねーちゃんにそれとなく情報を流すときに、ほかのあんたたちを探してる連中にもつたわちゃったんだろうなあ~。ま、その刺客もお兄ちゃんが倒しちゃったみたいだしそこは水に流そうよ。」

 

「よく言う。じゃあナティル様が男子であることはいつから知っていた。まさか見たことがあったと抜かすわけじゃあるまいな。」

 

「あるわけないだろ、変態か。ああ、でもお兄さんは無理やり見たから変態か。」

 

「まぜっかえすな!」

 

「ナティル様用の月のものに使う腰布を、だれも一月以上買ってないからだよね。それにここから出るごみの中にもそれらしきものはなかったしね。」

 

「!」

 

 ガスはハッとした。自分の迂闊さに嫌気がさす。たしかに、普通あの年の少女なら月のもの(・・・・)があってしかるべきなのだ。ビジョンはずっと一緒に暮らしたり、行動したりしているがそこはクノイチ、そういった気配を全く悟らせないものだから、一般的な女性に対する認識を欠いていた。というか自分たちの買い込んだ物品の明細書や出したゴミまであさっていたのか、変態はどっちだ。

 

「わかった…お前を俺たちの仲間にしよう。」

 

「やった!まあ、オイラが今まで陰日向でお兄さんたちを助けたわけだから当然と言えば当然だけどね。ねえねえ、みんな秘密の暗号名(コードネーム)とかないの?オイラ『黒紫真珠のポマレ』とかってのがいいな~

 

 ポマレは飛び上がると、大はしゃぎで部屋を駆けまわった。秘密のコードネームに本名が入ってればそれは秘密なのか?とてつもなく怪しい男だが、ナティルを探し出したのはポマレの影の協力があったのは間違いなさそうだし、何と言っても目端が利く。ビジョンと同じようにその才は間諜・素破の部類だが、利と算によって人を計り、人の世の欲の理を巧みに見抜く目の確かさは、逸材と言ってもいい。ある面ではシノビの情報収集能力以上だった。それにすくなくとも今のガスたちに必要な才能であることは確かだ。

 

「……しかし、まだどうも腑に落ちないな。お前ほど機を見て動けるならどう考えたって俺たちの陣営よりマクガットを牛耳ってるほかの連中にかけたほうが儲かりそうだ。なぜおれたちを選んだ。」

 

「またその話?さっきも言ったけど、お兄ちゃん…ガス兄ちゃんって呼んでいい?ガス兄ちゃんたちと居たほうがデッカイくじがひけるからだよ。」

 

「ナティル様が・・・・・男子として王位につき、王国を取り戻せると踏んだわけか?」

 

「そこなんだけどねえ……ガス兄ちゃんやっぱまだ勘違いしてるよ。だからそれは「無理」だって。まあもしそういう事ができるとしてもまだずっと先の話さ。」

 

 ポマレが肩をすくめた。

 

「いくら前王の血を引いた王子がいて、宝剣があったってさ。例えたら今からガス兄ちゃんたちがやろうとしてるのは、オーガーのわんさか居る巣に行って、ここはもともと自分の先祖の土地だって言うようなもので、それで返してもらえるかって話さ。「とられたもんはとられた」んだ、それをそっくりそのまま取り返そうってのは「無理」だよ」

 

「ぁ……」

 

 ガスの中で何かが火花を立てて弾けたような気がした。

 

「つづけろ、ポマレ。」

 

「へへ、だからね。誰も分捕ってない土地に家を建てたらいいのさ。そして表札を「マクガット」って言えばいいの。マクガット王家の血を引くマクガットの人間が、正当な証をもって「マクガット王国」を宣言する。それに誰が文句が言える?バイズリー伯でもそれは認めるしかないさ。」

 

 ガスがこの5年、考え付きもしなかった「お家再興」の絵だった。いやもとよりマクガット国人には思いつきはしまい。なぜならマクガット国人は「元のマクガットの国土」という幻影に縛られているからだ。

 

「新しく国を作る?だからお前はさっき「負けないように碁を打つ」といったのか。あれは「碁を負けないように打つ」という意味ではなくて「自分が絶対に負けないルールの碁を打つ」ということか。相手の盤上で戦うわけではなく、こっちが碁盤を用意しろと?」

 

「ははは。ガス兄ちゃん、いい例えだ。なかなか物わかりがいいね!」

 

 ガスはうなった。もはやこのポマレという男は商人の域を超えて危険な男かもしれなかった。ポマレの画いた絵は王権と宝剣に関わる誰も考え付きもしなかったような構図だからこそ、逆にそれは成功する可能性がある。戦術に例えれば、まさにそれは盤外の一手、いわば奇襲に類するやり方だ。

 

だがそれにしてもすべての鍵は、あの人(・・・)である。

 

「ガス様……」

 

 
 *次回【戦士】④後編はこちら*

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