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このブログは、wizon wizardryonline (ウィザードリィオンライン)のプレイ風景をつづったものです JP現アルバロア鯖で活動しているプレイヤーの個人日記です。
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これまでの小説まとめはこちら
 
前回妄想小説【戦士】④-後編はこちら
 
次回妄想小説【戦士】⑤-2はこちら
 
*拍手コメントにおいていくつか語句の間違いをご指摘いただきました。

一応推敲や校正はしたつもりですが、やっぱりそういう間違いいっぱいあると思います(笑)

ご容赦ください。ご指摘された箇所はできる限り訂正いたします。*

拍手[2回]




*******************************************


  6年ぶりに訪れたマクガットの城下町は『六月革命』と呼ばれていたあの貴族たちの反逆劇からずいぶんと落ち着きを取り戻しているように見える。だが、壮麗な石造りの家屋や商家が建て並んでいた目抜き通りは閑散としており、いまだに戦火の爪痕がいたるところに残っていた。『六月革命』とそれに続いて起こった貴族たちの内紛は、バイズリー伯が一応の王都鎮護都督という地位について落ち着いたものの、政情不安を治めるための過度の民衆への締め上げも功を奏せず、他国から流入し、裏で暗躍する犯罪者たちの冒険団によって、国内の治安はますます悪化していた。

 

日が落ちれば、家々は戸窓を閉め切り、夜盗物取りにおびえて息をひそめて暮らしているようである。さながら夜の街は敵国に占領された街かスラムのように静まり返っている。

 

 そんな寂れた空気の街の中を、月明かりだけを頼りにして、移動式の幕屋を折りたたんで載せた荷馬車がひっそりと進んでいく。五人の男女の乗るそれは、古びた荷馬車の車輪の軋みと疲れ切った馬の蹄が石畳を叩く音を静かな街に響かせていた。

 

「まったくたまげたな。俺が生まれたのはここいらだったんだぜ。極楽通りがこんな時間に人気がなくなっちまうなんて、あのころは考えられなかった。」

 

 ラマルクが荷馬車のほろの隙間から覗く街を見ながらそうこぼした。荷馬車の中には、ラマルク、ビジョン、ポマレ、そしてナティルが乗っており、馬の手綱を握るのはガスだ。

 

「ずいぶんと国も民も疲弊している。みな、貴族たちの身勝手な争いに疲れているのだ。」

 

 目深にフードをかぶってゆっくり馬を歩かせながら、ガスは後ろのラマルクにそう答えた。横目に通りの隅にあられもない姿で酒瓶を抱えてぼんやり寝転がる酔っ払い(ブーザー)達が映るガスマクガットで王城に仕える戦士だったころはよく週末は仲間たちとここいら(・・・・)の酒場に繰り出したものだ。そんな夜の次の日の朝はベッドの上で目が覚めたことなど、数えるほどしかない。こいつらのように道端で眠りこけたことが何度あったことか。だがいまここに横たわっている酔っ払いたちの眼は、昔この街でよく見た、痛飲による幸福の酩酊に陥っているビッグワータイガー達のそれではない。生きる活力と明日への希望を断たれ、何もうつさぬ瞳でただ静かに酒で脳を麻痺させながら生きながら死んでいく、人の形をしたヒトガタの目である。

 

「うひゃあ・・・ほんとなんだか景気の悪そうな街になっちゃったんだねえ。オイラ商売がちゃんとできるか不安になってきちゃったよ」

 

 ポマレがラマルクの脇から外を眺めてそうこぼす。

 

「華の極楽通りって歌も今は虚しいぜ。嫌な(オド)が吹きだまってやがる……だがまあしかし、この陰気な国に風穴開けようってんだから、あんたは大した男だよ。ヴィントさんよ。」

 

 通りの観察にも飽きたのか、ラマルクがほろのなかに引っ込むと懐からワインボトルを取り出し、一杯煽りはじめた。ディメント王国で募った傭兵冒険者は結局ラマルク1人だけだった。今回のミッションには少数精鋭で臨まねばならない。マクガット国人である程度腕の立つ戦士を仲間に入れられたというだけでも行幸かもしれなかった。だが、このラマルクという男は全くいつでもどこでも緊張感のない男だ。よく言えば泰然自若であり、悪く言えば大雑把でいい加減だった。まあ、今は気を張り詰めているより自然でいい。大一番はもう少し先なのだ。

 

「俺じゃない。ナティル様がこの「計画」を遂行されるのだ。あと、今はガスでいい。俺はこの国では少し名が通り過ぎている。他の人間と話す時だけ『ヴィント』と呼べ。」

 

「お手数のかかることだ、あいにくそんなめんどくさい密偵ごっこは性に合わないんでね。それじゃあ『碁打ち爺さん』でもなんでも好きに呼ぶさ。」

 

 早速機嫌のいいことを言いながら、ラマルクが荷台に寝転がる。

 

「お姫さんはどう呼んだらいい?お嬢さん(マドモアゼル)お姫様?(ラ・プリンセス)それとも閣下か?」

 

「……調子に乗るなよ、若造。本来なら、お前のような下郎が酒瓶片手に話しかけられる様なお方ではないのだぞ。」

 

 さすがにエルフの剣士の増長した態度に舌打ちしながら、ガスが荷台を睨みつけた。ナティルはころころと笑いながら、二人の会話を聞いている。

 

「かまいませんわ。わたしは14までただの僧侶として教育を受けた農家の娘でした。ガス様が私たちのもとを訪れて1年たった今でも、自分がマクガットの王室に連なる人間だと、そう思う方がいささか難しゅうございます。」

 

 いや、今自然と娘と称しているが、彼はれっきとした15歳の王位継承権を持つ王族の末裔なのだ。

 

「それにしても、ガス様。わたくし嬉しい、父の国をこの目で見られて。」

 

「……その通りです、ナティル様。この国はあなたの御父君、ヨーレイナロウ王と代々のご一党が何百年の歳月をかけて心血を注いで治めてきた場所です。」

 

 だがそれが今はこんなに荒れ果てて。

 

「そうね。ガス様のお話だけしか知らないけれど、きっとご立派な徳政を敷かれていたのでしょうね。今は少しさびしいけれど、元はとても素敵な国だということがわかりますわ。ありがとう、ガス様、私をここに連れて来てくださって。」

 

 ナティルが弾んだ声でそういう。

 

「ただ、この王都の地形からすると、先ほど通った南のエナメラ川から支流を引いて下流の街と水路でつなぐことができれば、交易や物流も盛んになりそうね。どうしてお父様はそうなさらなかったのかしら。」

 

 この一年ナティルと共に暮らして、彼…が偉大な優しい王になると確信するのはこういうところである。その半生は貧しい寒村しか知らないはずなのに、その視線は天空を飛ぶ鷹のように人々の暮らしと平和を鳥瞰している。間違いなく生まれついての為政者の素質。そう感じるたびにガスの頬が緩む。

 

「エナメラ川はその南東から寄るイソッド川と合流し古代より治水が大変難しいのです。ヨーレイナロウ王もその終生をかけてかの川の堤を修繕なさいましたが、水の神を治めることは敵いませんでした。」

 

「なるほど、そうでしたのね。では植林を試してみれば…?ディメントⅠ世の御世に川の合流点に植林と流路増設を施し、ディメント王国のアリア川を治めたという記述がありますわ。ディメント王国では旧水路という優秀な治水設備もあってのことですけど。」

 

「ははは。植林ですか……もともとマクガットの気候は森林国家ディメントとは違う。植林という発想はありませなんだ…さすがのヨーレイナロウ王もお考えなさらなかった。慧眼です、ナティル様。」

 

 この賢く心優しき王者に治められるならば、なんと王国は平和で豊かであるだろうか。その夢を実現させるためには比喩ではなく、ガスは何もかもナティルにささげられる。

 

「そうして支流を引いたら、みんなで川遊びをしましょう!ヒステリア卿が出した今年の新作の水着、とってもかわいいのよ。ぜひ着て御船で遊んでみたいわ!」

 

「・・・・・・・」

 

ガスがナティルを見つけ出して1年、少しでも王族にふさわしい教育を施そうとナティルの教育係をかって出たガスだったが、唯一この「淑女の言動」だけは変えることができなかった。ガス=ペーパードリック、一生の不覚、痛恨の極みである。この世にも可憐な王子の、完璧なレディの振る舞いを見たら、17代にもさかのぼるマクガット家の御始祖の御霊魂(おみたま)も、霊界で頭を抱えことだろう。

 

(まず……大事なのはナティル様が王としての座に就くことなのだ。姿かたち、振る舞いなぞ、些細な問題でしかない……)

 

 ガスは必死で自分にそう言い聞かせる。

 

 実直な元王城戦士の男がこの一年如何にこの問題に心を砕いてきたか、剣を持って彼女、いや彼を守ったことも幾度となくあったが、それ以上に難儀だったのは、女として扱わねば癇癪さえおこす、まったく完璧な淑女としてのナティルの性格だった。もともとナティルの母、バッツがナティルを王の血を引く男子だと世間にばれないために女子として育てていたわけだが、実はナティル本人も「女性性」というものにまんざらでもない親和性をもっていたのかもしれない。

 

(わが敬愛するヨーレイナロウ王よ、ガス=ペーパードリック、この点だけはお恨み申し上げますぞ。もしや王に限って、そういう性的御嗜好をお持ちだったのではありますまいな。)

 

 アヴルールに誓って尊崇する前王に、ガスは初めて懐疑の心を抱いたことを恥じるべきだろうか。

 

「ガス様、そろそろでございます。」


*次回【戦士】⑤-2はこちら

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