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話はもう一度時間をさかのぼる。
ラマルクが『マッコイ兄弟団』を訪れる1年前、マクガット城が落ち、ヨーレイナロウ王が地下の暗い坑道で命を落としてから5年後、マクガット王城近衛戦士団の隊長を務めたガス=ペーパードリックは、マクガット家にまつわる縁を求めて、ディメント王国にある『灯台の街』という名の小さな港町に潜伏していた。
『マッコイ兄弟団』は鍛冶屋通りに面した小さな「冒険者の酒場」の一つである。マスターは24,5のノームの娘でエリナといった。もともとは鍛冶屋が入っていた建物を酒場に作り直した『マッコイ兄弟団』にガスが居つくようになったのはこの街に来てからすぐだ。そのころ店はエリナの父が店主だった。小さいが老舗の「冒険者の酒場」だったのだ。いま店にはエリナ目当てで集まってくるヒューマンやノームの男は多いが、全員が冒険者というわけではない。それでいて、それとなく冒険者界隈の噂が流れてくる。あまり大きくて有名な「冒険者の酒場」に出入りすれば、ともすればガスの素性が知れてしまうかもしれない、こういった性質の酒場がひとまず腰を落ち着けるには都合がよかった。
「ヴィントさぁん、今日は麦酒が進みませんねえ。なにかあったんですか。」
ガスは、この街に来てから『ヴィント』という偽名を使っていた。表向きは外国から来た冒険者ということにしてある。実際に月に1~2回は冒険隊を募って冒険者ギルドの公募している任務をこなすこともあった。この五年というもの、すっかり冒険者の風格が身に着きつつあるガスである。冒険者に扮した生活を送っているのは、本来の使命を偽装するためだ。いつ何時滅びた祖国を牛耳る貴族どもが追っ手を差し向けるかわからなかった。用心に越したことはない。
店の中には『ヴィント』とエリナだけしかいない。おりしも振り続けている小雨のせいで店に客足が遠のいているのだ。エリナも暇だったのだろう、カウンターからいつの間にか抜け出るとガスの隣に座って、水パイプに火を入れながら居座る構えを見せた。
「あ~わかった。たまにヴィントさん所に来るあの女の人が来ないから、さびしいんでしょう~やっぱりほんとはお二人出来てるんじゃないんですかあ?今日も来るんですかあ?ねえねえ。」
この際はっきりさせましょうよ、そうしましょうよといってエリナはゆさゆさとヴィント…ガスの腕をつかんで揺さぶってくる。ノーム種の女性特有のゆたかな胸の双丘がそれとなく肘に中る。
(これさえなければ、申し分ない場所なんだがな…)
「それとも、あれ?ヴィントさんって昔のお友達を探してらっしゃるんでしたっけ。なんでしたっけ、そんなこと言ってませんでしたっけ、言ってましたよね。それともそれはあの女の人とあれな関係なのを隠すための嘘ですか?どうなんですか?付き合ってるんですか?」
不定形の狂気、這い寄る混沌、肌色のバブリースライム……ガスは今や腕一杯にエリナの胸の感触を感じて戸惑っていた。
剣の道一筋に生き、祖国では妻帯すらしていなかったガスにとって、こういった年頃の娘と接するということが何よりも苦手だった。別に朴念仁というわけでもなく、ましてや衆道のケがあるというわけでもない。若いときは先輩の近衛戦士達につれられて「近衛戦士の儀式」と称して遊郭に何度も上ったこともある。しかもかなりモテた。だが、日常で接する女子供が彼にとって天敵であることには依然変わりなかった。何しろ奴らには剣と槍が通じない。端正とは言えないが、実直で誠実そうな彼の風貌に惹かれる娘は昔から多かった。マクガットにいたころよく通った酒場『甘いコボルト亭』で何かの拍子に数人の女冒険者から言い寄られた時は、戦場で重装オーガー歩兵の小隊に囲まれた時より生きた心地がしなかったものだ。
「違うっ……そういったあれじゃない。」
言い訳すら陳腐な文句しか思いつかない。剣と槍を扱うように女を扱えと昔やり手の先輩の戦士は教えてくれたが、いつまでたっても上手く扱うようになれない。ガスにはその方面の才能は零だと言えた。
「そーんなこと言って……あ、いらっしゃい。」
さらに体を密着させようと、ガスが座っている唐の椅子にすり寄ってきたエリナだったが、店の来客を知らせる魔鈴の調べに戸口を振り返った。まだ小雨が降り続く戸口には、黒く、ゆったりとした服を合羽の下に着た陰気な女が、それこそ幽鬼のように立っている。エリナの話していた当の本人である。さすがに誰もいない店内で女将と客がべったりくっつく絵柄というのは拙かったのだろう。エリナはそそくさとガスのもとを離れ、カウンターの奥に引っ込んでしまった。
(助かった、「クオパティの貉」だ)
聖人クオパティが、修行の旅の途中森の邪賢人に惑わされたことがあった、そこに現れ迷えるクオパティを正気に戻し邪賢人の誘惑を退かせた一匹の貉の話が、クオパティ法制院の聖典に記されている。その古典説話を思い出しながら、ガスは訪れた客……実際彼は彼女を待っていた……に感謝した。
「……お邪魔だったでしょうか?」
入ってきた女は何が恨めしいのか、消え入りそうな声でそういった。顔立ちは美しいのだろうに、いつもこの女は幽鬼の様な雰囲気を漂わせている。彼女の名はビジョン、祖国マクガットの家老グレイン卿が遣わした、彼の「シノビ」あるいは「クノイチ」、いわゆる忍者という特殊職業に属する乱破素破の女である。
「なんのことはない、むしろ助かったぐらいだ。それより、どうだった?」
1つ咳払いをして、ガスはそう尋ねた。「どうだった」とは彼の悲願である、ヨーレイナロウ王家に縁のあるものに関する探索の事である。
「ええ、間違いありません。おそらくほんものです。」
ぬるい麦酒を煽って、弛緩し掛けていたガスの目つきが変わった。ついに探し出せるかもしれない。この国に来てから5年、グレイン卿から得た情報で生前ヨーレイナロウ王が滞在したという『クラブ・バウル』という旅籠を訪れてみたが、店の名前はそのままで従業員や経営者はそっくり前と変わってしまっていた。一体どういう力が働いたものか、当時の関係者ははじめまったく手がかりがつかめなかった。ガスは5年の間当時を知る人間を片っ端から捜し歩き、情報を集め、ヨーレイナロウ王との縁を求め続けたのだ。
「確かだろうな。」
ビジョンは優秀な「シノビ」である。必要な情報は何としてでも手に入れるし、毎回その情報の確度も高い、彼女が確証を添えて掴んだ情報なら間違いない事なのだろう。しかしガスはついそう聞かざるを得なかった。
これまで何度この手のはずれを引いてきたことか。どんな小さな噂や人物のつながりにもあたってきたガスだが、そのたびにずいぶん落胆を経験してきた。もしビジョンという「シノビ」の手を借りていなかったら、いくら鉄の意志を持つ戦士ガスでも王の縁の探索はここまで続けられなかったかもしれない。
「……直接お確かめください。エドワナ村の……」
そこまで言いかけて、ビジョンはそっとカウンターの向こうのエリナを振り返った。彼女はどう見ても高々冒険者の酒場の女将に過ぎないし、この距離で会話が聞き取れるとも、聞いたところでどうなるとも思わなかったが、用心に越したことはない。緊張したガスの耳には店の表を走る馬車の車輪が雨に濡れた石畳をこすり走り去っていく音すらことさら大きく聞こえた。
(エドワナ村に・・・僧の2人しかいないクオパティの小さな修道僧院があります。15年前『クラブ・バウル』でヨーレイナロウ王ご逗留の折、数度客室係をしていたバッツという女が、そこに自分の生まれたばかりになる子を入院させたそうです。その後、すぐにバッツは亡くなっていますが、いまもその子はアフレアという名前の尼と僧院で2人暮らしだとか。子の年は14だそうです。)
後半はささやきで伝えられた。個人間の念話魔法の総称である。よほど諜報魔術に長けた魔術師でもない限り、会話を他人に盗み聞きされる心配はない。
「エリナ、飲み賃はここに置いておくぞ。」
ガスが、おもむろにテーブルの上に金貨を置くと、立ちあがった。
「え、ヴィントさんもう行っちゃうんですかあ?」
エリナがカウンターの向こうからひょっこり顔をのぞかせると心底残念そうな声を出す。
「ああ、もしかしたら古い友人の足取りがつかめるかもしれない。」
ジト目で二人を見送るエリナを差し置いて、ガスは手早く剣を履くと店を出て小雨になりつつある通りを歩きだした。
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あるときは宝箱の中から爆弾を出すシーフ、またあるときは攻撃の届かないファイター。
ただ皆様の平和と健康と幸福を祈るだけの存在
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プレイヤーで作る『ファッション重視』のイベントについての質問です。
審査員などによるコーデを採点する方式のイベントと、採点を行わないショー的要素が強いイベントどっちを見てみたい?参加してみたい?
— (堕ω美) (@superstreetwiz) 2015, 12月 7